コラム

2025.10.22

コラム

遺留分の侵害

遺留分とは?基礎知識と相続トラブル防止のポイント

遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に法律上確保された最低限度の遺産取得分をいいます。

遺留分を侵害するような遺言や生前贈与が行われていた場合、受け取れるはずの遺産が受け取れなくなった相続人から不満が発生し、相続トラブルに発展しやすい要因となります。


本記事では、遺留分の基本から、計算方法、侵害された場合の請求手続きとその期限などを解説します。

1.相続における遺留分とは?

遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に法律上最低限認められている遺産取得分のことをいいます。

なぜこの制度があるのかというと、被相続人(亡くなった方)によって住居や生計を維持してきた遺族の生活保障のためや、被相続人による自由な財産承継を尊重しつつも、特定の人だけが優遇され、遺産を集中して相続することにより、他の相続人との間に著しい不公平が生じることを防ぐためなどとされています。

たとえば、「全財産を特定の人に与える」という遺言があっても、法律で定められた範囲の相続人には遺留分として一定の取り分が保障されます。

遺留分と法定相続分の違いは?

法定相続分とは、民法で定められている法定相続人の相続割合のことです。

相続順位によってその割合は異なり、同じ順位に複数の相続人がいる場合はその人数で均等に分配します。


ただし、法定相続分に基づいて遺産分割が行われるのは、あくまでも遺言書がない場合などです。

遺言書や相続人間の合意などがあれば、その内容が優先され、相続人は遺言書や合意などの内容に沿って遺産を分配することとなります。


一方で遺留分は、たとえ遺言や死因贈与によって相続人の取り分が奪われるような状況でも、その相続人が最低限取得できる権利を保障するものです。

遺留分が侵害されている場合、その相続人は、自分の遺留分を侵害している者に対し遺留分を主張して金銭の支払いを請求することができます。

2.遺留分を有する人とは?対象者と例外

次に、遺留分を有する相続人(遺留分権利者)の範囲について解説します。

遺留分が認められる相続人

遺留分権利者の範囲は以下の“法定相続人”に限定されます。

配偶者
子(死亡している場合は孫など直系卑属)
親(死亡している場合は祖父母など直系尊属)

遺留分が認められる代表的な相続人は、被相続人の配偶者と子どもです。

配偶者には必ず相続権が発生し、子どもは第一順位の相続人としていずれも遺留分が認められています。

親や祖父母などは、子どもがいないため直系尊属が相続人となった場合に遺留分の権利を有します。

子どもがいる場合は親や祖父母は相続人とはなりませんので遺留分権利者にも該当しません。

兄弟姉妹に遺留分はない

兄弟姉妹には遺留分が認められていません。

兄弟姉妹が唯一の相続人になる場合には、そもそも遺留分を請求できる相続人が存在しないということになります。

遺留分が認められないケース

相続放棄・廃除・欠格・遺留分放棄をした場合も、遺留分は失います。

・相続放棄

相続放棄を行うと、その人は最初から相続人ではなかったものとして扱われます。
結果として、遺留分を主張する権利も失います。
また、相続放棄の手続きを取ると代襲相続も発生しませんので、遺留分の権利も代襲されません。

・相続廃除

相続廃除とは、被相続人が生前に家庭裁判所へ請求したり、遺言により廃除の意思表示をし、死後に遺言執行者が家庭裁判所へ請求したりし、当該請求が認められた場合に適用される制度です。

被相続人に対する虐待や重大な侮辱をした場合や、著しい非行があった場合に当該相続人は廃除され、遺留分も含めて一切の相続権を失います。

・相続欠格

相続欠格者とは、被相続人を故意に死亡させたり、詐欺や脅迫によって遺言書を作成させたりするなど、法律に定められた相続欠格事由に該当する行為があり、相続権が発生しない相続人を指します。

・遺留分を放棄

遺留分を放棄した場合には、当然に遺留分に対する権利を失います。
被相続人の生前に遺留分を放棄する場合は、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
事業承継の都合で特定の後継者に財産を集中させたい場合などに遺留分放棄の手続きを取ることがあります。

3.遺留分の割合と計算方法

遺留分は相続人の構成によって異なります。具体的には以下の通りです。

・子や配偶者が相続人 → 遺産全体の 1/2
・直系尊属(父母または祖父母)のみ → 遺産全体の 1/3

遺留分の基本的な割合

相続人の構成により遺留分によって取得できる遺産の金額は異なってきます。

複雑な資産を多く保有している場合や誰が相続人となるかわからない場合などは、まずは弁護士など専門家に相談し、正確な総額と相続人を洗い出すことが大切です。

■計算例①

遺産総額:6,000万円
相続人:配偶者と子2人

・総体的遺留分:3,000万円(全体の1/2)
・配偶者の取り分:1,500万円(1/4)
・子1人あたりの取り分:750万円(1/8)

総体的遺留分は遺産全体の2分の1です。

これを配偶者(法定相続分2分の1)と子2人(法定相続分2分の1÷子どもの人数=子ども一人当たり4分の1)に分配すると、遺留分割合は遺産総額に対して、配偶者が総遺産の4分の1、子がそれぞれ8分の1となります。

■計算例②

遺産総額:6,000万円
相続人:配偶者と親1人(子なし)

・総体的遺留分:3,000万円(全体の1/2)
・配偶者の取り分:2,000万円(1/3)
・親の取り分:1,000万円(1/6)

子がおらず、配偶者と直系尊属(親)だけが相続人の場合、総体的遺留分は2分の1となります。

配偶者の法定相続分が3分の2、親の法定相続分が3分の1ですので、これらの割合で按分すると、遺留分割合は遺産総額に対して、配偶者が総遺産の3分の1、親が6分の1となります。

生前贈与や死因贈与がある場合

一定期間内に被相続人が生前贈与した財産や、死因贈与(死亡を条件とする贈与)で贈られた財産についても、遺留分の計算の際に考慮する必要があります。

生前贈与とは、被相続人が生前の内に財産を承継する人(受贈者)と契約して財産を譲渡するものです。原則として、相続開始前の1年間にされたものに限り、遺留分の計算の際に考慮されますが、贈与した側(被相続人)と受けた側(受贈者)が「贈与した内容が遺留分を侵害すること」を知っていた場合は、相続開始1年以上前の贈与も対象となりますので注意が必要です。

また、相続人に対する生前贈与のうち、特別受益に該当するものは、相続開始前の10年間にされたものに限り、遺留分を算定するための財産の価額に算入されます。

◆特別受益の関連コラム◆
特別受益にあたらない生前贈与とは?【相続争いの原因】特別受益を詳しく解説

4.遺留分侵害額の請求を行うことが考えられる場面

原則として、次の行為により、自身の有する遺留分額よりも遺産の取得分が下回る場合に、遺留分侵害額の請求を行うことが考えられます。

請求対象となりうる行為

・遺贈
・死因贈与
・生前贈与(特別受益に当たるもの)

■遺贈する財産

遺言書で財産を承継することを遺贈といいます。

遺言書に特定の相続人や第三者に財産を譲ると記載されていた場合、遺言書の内容は原則的に尊重されますが、特定の人物にだけ遺産を残したいといった遺留分額を十分に考慮していない内容の場合は遺留分が侵害される可能性があります。

■死因贈与する財産

死因贈与とは被相続人の死亡を条件として効力が生じる贈与です。

遺留分の観点からは、死因贈与によって移転した財産も遺留分の計算対象に含まれます。

生前に贈与者(あげる側=被相続人)と受贈者(受け取る側)の間で贈与に関する合意が必要です。

■生前贈与した財産

生前贈与とは、被相続人が生前の内に財産を承継する人(受贈者)と契約して財産を贈与するものです。相続人に対する贈与は、相続開始前の10年間にされたものに限り、遺留分を算定するための財産の価額に算入します(同条3項)。

相続人以外の者に対する贈与は、相続開始前の1年間にされたものに限り、遺留分を算定するための財産に算入します(民法1044条1項)。ただし、贈与した側(被相続人)と受けた側(受贈者)が「贈与した内容が遺留分を侵害すること」を知っていた場合は、相続開始1年以上前の贈与も対象となりますので注意が必要です。

5.遺留分を侵害された場合の対処法

遺留分を侵害された場合、「遺留分侵害額請求」を行うことができます。

遺留分侵害額請求とは?

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された権利者(遺留分を有する相続人)が、不足分を侵害者(贈与などにより遺留分を侵害して多くの財産を承継した人)に補償してもらう手続きです。

2019年の相続法改正により、請求方法は「金銭請求」に統一されました。

※民法改正以前には、遺産そのものを取り戻す「遺留分減殺請求」という仕組みでしたが、現在では金銭請求だけで完結できるようになりました。

遺留分侵害額請求の手続きの流れ

次に遺留分侵害額請求を行う場合の手順についてです。

①相続財産を調査・評価し、遺留分を算出
②侵害者に対して内容証明郵便などで請求
③任意に支払を受けられなければ家庭裁判所の調停へ
④調停が不成立なら訴訟へ

①相続財産の評価額を確認し、遺留分を算出する

まずは遺言書や相続財産の内容を正確に把握し、侵害されている遺留分がいくらなのかを算出します。
そのためには、すべての相続財産(不動産や株式などの有価証券、美術品など)の評価額や、生前贈与の有無などについて正確に調べる必要があります。

◆相続財産調査とは?◆
相続財産調査はなぜ必要?調べ方と対象となる財産について

②侵害している側に請求・話し合い

その後、遺留分を侵害している側の相続人や受遺者に対して、内容証明郵便などを送付し、金銭請求を行うのが一般的です。

話し合いで解決する場合は、支払い方法・期限などを協議で取り決め、合意内容をまとめた合意書を作成します。

③話し合いで解決できない場合は法的手続きへ

話し合いで合意に至らなかった場合、家庭裁判所での調停を利用する方法があります。

調停では、調停委員が中立的な立場から当事者の意見を聞き、解決策を模索します。

調停が成立した場合、合意した内容には法的拘束力がありますので、トラブルの再燃を防ぐことができます。


調停で合意できなかった場合、地方裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。

最終的には、裁判所が事案に応じて、遺留分侵害が認められるか否か、認められる場合の支払額等について判断を示すことになります。

調停や訴訟では、書類や証拠を整えて自分の主張を立証する必要がありますので、弁護士への相談をおすすめします。

特に遺産の評価額や生前贈与の有無に関して意見の対立がある場合、専門的な知識が欠かせません。


万が一、話し合いや調停などで合意できずに訴訟に発展した場合、審理期間が長期に及ぶこともあります。

そのため、裁判に進むかどうかは費用対効果や関係性の破綻するリスク、心身の負担等を考慮して判断するようにしましょう。

遺留分侵害額請求の請求期限(重要)

遺留分侵害額請求には請求期限があります。

・相続開始および遺留分の侵害を知った日から 1年以内(時効)
・相続発生や遺留分侵害の事実を知らない場合でも相続開始から 10年が経過したとき(除斥期間)

上記の期限を過ぎると遺留分侵害額請求はできなくなります。

特に「知った日から1年」というのは短期間なので注意が必要です。

また、基本的に除斥期間の延長は認められていません。


相続人の確定や財産評価に時間を要するケースもありますので、請求期限に注意しながら相続手続きを進めることが重要です。

6.二次相続になっている場合の注意点

遺留分侵害額請求権は「個人的権利」ではなく「相続財産の一部」とされます。

したがって、次のように、一次相続人が請求前に亡くなった場合でも、その権利は二次相続で相続人に承継されます。

<第一次相続>
・被相続人:父A ※母は既に他界
・相続人:長女B、長男C、次男Dの3人 

父Aは遺言でほとんどの財産を長男Cに相続させるとしました。
その結果、長女Bと次男Dの遺留分が侵害されている状態。

BとDには「遺留分侵害額請求権」がありましたが、Dは請求する前に亡くなってしまいました。

<第二次相続>
・Dの相続人:妻E、子F

このとき、Dが持っていた遺留分侵害額請求権は消滅せず、Dの相続財産に含まれます。 つまり、二次相続(Dの相続)において、その権利はEとFに承継されます。

7.トラブル防止のための遺言書作成ポイント

遺言書は被相続人の意思を反映することができますが、遺留分をまったく考慮しない内容の場合は、後々に相続人同士の対立を生む可能性があります。相続トラブルにならないためにも、遺言書作成時に配慮すべきポイントについて知っておきましょう。

遺留分を考慮した遺言書の作成

遺言書を作成するにあたり、遺留分を考慮するうえでもっとも重要なのは、①全ての遺産内容と、②相続人が誰であるかを明確にすることです。


この2つを正確に把握していないと、遺留分について判断することができず、意図せずに遺留分を侵害した内容の遺言書を作成してしまった、という事態になりかねません。


次に、「誰に」「どの程度」の財産を与えたいのかを前もって洗い出します。


遺言書は被相続人の希望の内容で作成することができますが、遺留分に考慮した内容で作成することで、後々の相続トラブルの発生を防ぐことができます。また、事前に相続人に対して遺言書の主旨を説明し、納得を得ておくと、相続発生後の揉め事を大幅に減らすことが期待できます。


遺言書は、自分で作成する自筆証書遺言も可能です。

しかし、自筆証書遺言では、要件を一つでも満たさないと無効となる可能性もあるため注意が必要です。

希望通りの遺産相続を行うためには、弁護士等の専門家に遺留分に考慮した内容となっているのかについて相談したり、公正証書遺言の形で遺言を作成したりすることも検討すべきでしょう。

8.まとめ

遺留分は法定相続人が最低限確保できる遺産取得分を保障する制度として、相続人間の公平性などに寄与しています。

誰が遺留分を請求できるのか、またどのような計算方法や請求期限があるのかを理解することで、事前にトラブルを回避しやすくなります。


相続人の数が多い場合や、生前贈与や事業承継など複雑な要素を含む場合など、相続トラブルが発生しやすい事情がある場合には、遺言書作成前に弁護士などの専門家に相談することで、法的な問題点が発生しないように的確なアドバイスを受けることができます。

相続発生後に、遺留分侵害などで他の相続人との間で対立が起きてしまった場合でも、弁護士が間に入ることで、解決に向けて話が進む可能性が高まります。

円滑な相続を実現するためには、家族同士のコミュニケーションと専門家のサポートが不可欠です。一新総合法律事務所では相続に関するご相談は初回無料です。

どうぞお気軽にお問い合わせください。

この記事を監修した弁護士

弁護士 鈴木 孝規

鈴木 孝規
(すずき たかのり)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:静岡県静岡市 
出身大学:一橋大学法科大学院既修コース卒業
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。
そのほか相続、離婚、金銭トラブルなど幅広い分野に対応しています。

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