コラム

2024.07.02

コラム

遺産分割遺留分の侵害

父の遺産を母が独り占め~対処方法と母親が遺産を独占することの問題点

遺産相続において、特定の相続人がさまざまな立場から意見を主張し、遺産を独り占めしようとしてトラブルになることがあります。

例えば、父の遺産を、母が独り占めしてしまい、子どもに対してどんな相続財産がいくらあるのか情報共有せず、合意がないまま勝手に遺産を使い込んでしまうというケースがあります。

今回のコラムでは、父親の遺産を母親によって独占される場合の対処方法と、母親がすべての遺産を一人で相続することで起こる問題点について、弁護士が詳しく解説します。

【このコラムでわかること】
✓遺産の全てをひとりで相続できる場合とは
✓遺産を一人の相続人に独占されることを防止するための対処法
✓遺産を一次相続で母親がひとりで相続する場合の問題点

この記事を監修した弁護士

弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所 
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟市
出身大学:早稲田大学法学部
新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。

主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
そのほか、相続、離婚など幅広い分野に対応しています。

全ての遺産を一人で相続することはできる?

「母親なのだから遺産をすべて相続するのは当然だ」と主張された場合に、子供は父親の遺産を受け取ることができないのでしょうか。

まずは母親が、法的に問題なく父親の遺産の全ての遺産を受け取れるパターンについて紹介します。

遺言書に「すべて相続させる」と書かれていた場合

亡くなった方(被相続人)によって書かれた遺言書に、「●●(特定の相続人)にすべての遺産を相続させる」と書かれている場合があります。

この場合は、遺言書が法的に有効なものであれば指定された相続人が遺言書によって全財産を相続することが可能です。遺言書で指定された相続人が母親である場合は、父の遺産を母親がすべて相続できることになります。(※遺留分については後述します。)

相続人全員の合意を得られた場合

遺言書がない場合には、すべての法定相続人で遺産分割協議を行い、基本的には法定相続割合によって相続する財産を決めていきます。

ただし、遺産分割協議にて、相続人全員の合意を得られれば、ひとりの相続人が全財産を相続することができます。

父の遺産を母と子ども2人で相続するパターンで考えてみます。

父親が亡くなった場合には、母親と子どもが法定相続人となります。

配偶者である母親は遺産の2分の1、子どもはそれぞれ4分の1(子どもの法定相続割合である2分の1を子どもの人数で等分する)の法定相続分があります。

父の遺産を母がひとりですべて相続しようとする場合、子ども全員の同意があれば全財産を母親に相続させることが可能となります。

勝手な主張による独り占めはできない

しかし、母親だからといって、個人の勝手な主張による遺産の独占は認められません。


ひとりの相続人が遺産を全て相続することは、決められた法定相続分とは異なる遺産分割となりますので、本来相続できるはずの遺産を受け取ることができなかった他の相続人から不満が出てしまい、相続トラブルに発展することも少なくありません。


しかしながら、実際問題として、遺産を法定相続分できっちり分割できない場合もあるでしょう。

例えば、遺産の大部分が現在も母親が住んでいる実家と土地だけという場合です。

父親が亡くなったからといって、母親や同居している長男がいる場合には、実家の建物や土地について法定相続分によって遺産分割するのは現実的に難しい面があります。


その場合、不動産を取得する代わりにほかの相続人に対して「代償金」を支払うことで法定相続分での遺産分割ができないか話し合うことになります。


相続人同士での遺産分割協議で解決できない場合には、家庭裁判所において遺産分割調停や遺産分割審判の手続きを行って解決を目指すことになりますが、裁判所の手続きで「遺産の独り占め」が認められるとは考えにくいでしょう。

遺産を独り占めしようとされた場合の対処方法

遺産を使い込みが疑われる場合

遺産を独り占めしたいという主張の裏には、すでに遺産を使い込んでしまっているという別の問題が潜んでいることがあります。


遺産の使い込みを防止するためには、相続が発生したらすぐに預金口座の凍結をすることで対処しましょう。

預金口座の凍結は、銀行・金融機関に対して口座名義人の死亡を知らせることで手続きが完了します。


すでに預貯金の使いこみがあったことが疑われる場合には、金融機関から取引履歴を取り寄せ、不審な出金やお金の動きがないかなど、使い込みの証拠を探します。


万が一、遺産の使い込みが発覚しても取り戻すことは難しく、また、使い込みが被相続人の家族(配偶者や子ども、同居する親族)によるものであった場合には、被相続人の生前、死後にかかわらず法律で罰することはできません。


使い込みを疑われる相手が、使い込みの事実を認めない場合には、遺産を取り戻すために裁判により不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求を起こす必要があります。

どちらの内容で請求できるのか、また請求の内容によって時効期間が異なってきますので、使い込みの裁判を起こす場合には弁護士に相談をしながら進めるようにしたほうがよいでしょう。


また、遺産の使い込みだけでなく、同居していた母や長男などが通帳や証券などの遺産を隠しているケースもありますので、相続財産が少ないのではないか?と疑いがある場合には、法律事務所などに依頼してしっかりと相続財産調査を行うことも重要です。


使い込みがあった場合の対処方法や、相続財産調査の方法については下記コラムにて詳しく解説しています。

\もっと詳しく/
遺産の使い込みについて…「相続財産(遺産)の使い込みがあった?よくあるケースと対処方法」
相続財産調査について…「相続財産調査はなぜ必要?調べ方と対象となる財産について」

遺言の内容に納得できない場合

遺言書の内容が不公平で納得できない場合には、遺された遺言書が有効なものであるのかをまずは確認しましょう。

遺言書に形式上不備や、遺言能力(遺言を作成した際に認知症であったなど)について疑いがある場合には、遺言無効確認訴訟を提起し、遺言書の有効性を争うことができます。


特に自筆証書遺言の場合には、偽造や変造のリスクがあり、遺言書の有効性について争われる可能性が高まります。

裁判所から遺言書が無効と判断された場合には、相続人全員による遺産分割協議によって、遺産分割を行うことになります。

保障されている相続分「遺留分侵害額請求」をする

法定相続人(兄弟姉妹以外)には、「相続人に法的に保障されている最低限の遺産取得割合」として遺留分が保障されています


つまり、遺言書などで法定相続分を超えるような遺産分割が指定されていた場合でも、遺言書の内容について他の相続人が納得できない場合には、相続を指定された相続人に対して遺留分侵害額請求を行い、法で認められた割合の遺留分に相当する金額の返還を求めることができるのです。


遺留分侵害額請求権は、相続開始及び遺留分侵害を知ったときから1年以内に行使する必要があります。

①遺留分の認められる割合

遺留分が認められている割合は、誰が相続人となるかで異なってきます。

以下の表に、相続人のパターン別に遺留分割合をまとめました。

遺留分割合について

相続人が配偶者や直系卑属を含む場合・・・相続遺産全体の2分の1
相続人が直系尊属(親、祖父母)のみの場合…相続財産全体の3分の1


全体の遺留分割合を、遺留分請求権のある相続人によって法定相続分に応じて分けあいます。

子どもが2人以上いる場合など、同順位の相続人が複数人いる場合には、さらに等分します。

(例)法定相続人が配偶者と子ども2人の場合
配偶者・・・4分の1  ※1/2(配偶者の遺留分割合)×1/2(子どもの遺留分割合)
子ども一人あたり・・・8分の1 ※1/4(子どもの遺留分割合)×1/2(子どもの人数)

被相続人の兄弟姉妹は法定相続人ではありますが、遺留分の請求権がありません。

子どものいない夫婦で、すでに被相続人の両親が亡くなっていた場合は、遺言書に「妻に全財産を相続させる」と書かれていれば遺留分を請求されることなく、妻が遺産の全てを相続することになります。

②遺留分侵害額請求できる財産

遺留分侵害額請求できる金額の元になるのは、相続財産に以下の3つの贈与に該当するものを合算し、借金などの負債を差し引いた額です。

・遺贈…遺言で指定された人物への財産継承。被相続人の単独で内容を決めることができる。

・死因贈与…被相続人の死亡時に効力が発生する贈与契約のこと。贈与者と受贈者の双方の合意による契約。

・生前贈与…相続開始1年以内に生前贈与した財産が対象。ただし、贈与者と受贈者双方が遺留分侵害となることを知って贈与を行っていた場合には1年以上前の生前贈与についても請求対象となります。また、法定相続人への生前贈与が特別受益にあたる場合には、原則として、相続開始10年以内の贈与が対象となります。事業に関する財産の贈与については例外となります。

◆特別受益についてはこちら

母が遺産を独占することの注意点

母親が父親の遺産すべてを一人で相続した場合には、二次相続の発生時に税金問題が発生する可能性があります。

二次相続とは、一次相続で相続人になった配偶者が亡くなった場合に発生する相続のことです。

被相続人の配偶者が遺産を相続する場合には、相続税の配偶者控除を利用することができます。

配偶者控除とは、以下の2つのうちのどちらか金額が高いほうに対して、配偶者に相続税がかからないというものです。

【相続税の配偶者控除】
・課税対象額が1億6000万円まで
・配偶者の法定相続分相当額

一次相続で母ひとりが全ての財産を相続すると、母が亡くなり二次相続が発生した際に相続人である子どもの負担する相続税の金額が高額になってしまう可能性があるのです。

なぜならば、一次相続で相続した「父の遺産」と二次相続で発生した「母の遺産」を合わせた金額が相続人に引き継がれることになり、財産額は一次相続より高額になる可能性がありますが、二次相続の際には配偶者控除を利用することができないからです。


母親が遺産を独り占めしようとする場合だけでなく、子どもが残された母の生活を考えて、善意から相続財産の全てを母に相続させることがあります。

どちらの場合であったとしても、二次相続時の税金のことも考慮したうえで、遺産分割の方法を決めていくことが重要です。

一次相続で母ひとりが相続した場合の問題点
①子どもだけの相続になり、配偶者控除が使えない
②相続人の人数が減るため、一人当たりの相続税の負担が必然的に増えてしまう

遺産分割でお悩みの場合は、大きなトラブルになる前に弁護士へ

相続人同士の話し合いで同意が得られないにも関わらず、相続人のひとりが遺産を独占しようとしている場合、まずは法定相続分に基づく遺産分割を求めていくことになります。

しかし、母や長男などによる「自分が家を守ってきた」「夫の介護をしてきた」などの長年の想いが強い場合には、当事者だけの話し合いでは説得が難しく、本人がまったく話し合いに応じてくれない場合があります。

そのため最悪の場合には、遺産分割後まで影響がでるほど関係が悪化するなどといった相続トラブルに発展することも少なくありません。


遺産分割協議自体には期限はありませんが、令和5年4月1日に施行された相続法改正により、(相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合には)原則として故人が亡くなってから10年以内に家庭裁判所に遺産分割調停等の申立てを行わなければ、「特別受益」や「寄与分」の主張ができないことになりました。

また、相続放棄をする場合には相続開始を知った日から3ヵ月以内、相続税の申告には10か月以内などそれぞれの相続手続きにより期限がありますので、相続が発生した場合には、早急に遺産分割手続を始めるようにしたほうがよいでしょう。


相続に関する手続きだけでなく、個々の事情によって相続できる権利などは判断が難しいところもあります。

遺産分割について話し合いがまとまらずお困りの場合は、相続争いに発展する前に、ぜひお早めに専門家である弁護士にご相談ください。

悩むよりも、まずご相談ください

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