コラム

2024.04.08

コラム

相続放棄

故人の携帯を解約してしまったら相続放棄できなくなる?

この記事を監修した弁護士

弁護士 角家 理佳

角家 理佳
(かどや りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:新潟市
出身大学:早稲田大学法学部
新潟県弁護士会副会長(平成28年度)などを務めています。

主な取扱分野は、相続全般(遺言書作成、遺産分割、相続放棄、遺留分請求など)です。そのほか、離婚、後見等、家事事件に力を入れています。
新潟士業相続センターのメンバーとしての活動や、相続セミナーの外部講師を務めるなど、所内外で相続問題の解決に尽力しています。

亡くなった人(被相続人)にもし多額の債務(借金)があることが発覚した場合、相続放棄を検討することがあると思います。

相続放棄前に、被相続人の名義で生前に契約していた携帯電話やスマートフォンなどを、「使用者が亡くなったから、もう使用しないし」などという思いから慌てて解約、名義変更してしまうと、後になって相続放棄ができなくなる可能性がありますので注意が必要です。


このコラムでは、被相続人名義の携帯電話の解約や名義変更、通信料の支払い、通信機器本体の取扱いに関し、相続の手続きで注意しなければならない点について解説します

1.携帯電話を解約・名義変更してしまうと相続放棄できなくなるの?

相続放棄をする場合は、携帯電話の解約はしない

相続が発生した場合、亡くなった方(被相続人)の携帯電話の取扱いについてどうすればよいか迷うことがあるでしょう。


被相続人の契約していた携帯電話やスマホの解約手続きをしてしまうと、被相続人の「相続財産を処分した」として相続放棄ができなくなる可能性があります。

これを「法定単純承認」と呼びます。

【民法第921条第1項】
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。

単純承認をしたとみなされると、被相続人の所有している不動産や、財産、負債などのすべてについて、相続する意思があるものと扱われることになりますので、後から被相続人に多額の債務(借金)があったと判明し、相続放棄手続きをしようと思っても認められない可能性がでてくるのです。


また、相続放棄手続き完了後に携帯電話を解約した場合でも、債権者からの訴えで相続放棄の有効性について争われた場合には、相続放棄が無効となる可能性もあります。

名義変更や機器本体の売却はしない

相続放棄をする場合には、被相続人の携帯電話の名義変更や機器本体の売却はしないほうがよいでしょう。

被相続人の携帯電話本体も相続財産であるため、携帯電話の名義変更や売却を行うと「相続する意思がある」とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があるからです。

クレジットカードや銀行口座の名義変更手続きも同様です。


相続放棄ができなくなるリスクを避けるためには、故人名義の携帯電話について解約や名義変更は行わずに、相続の方向性が決まるまではそのままにしておくのが無難といえるでしょう。

2.携帯料金の未払請求がきたらどうすればいい?

被相続人が、亡くなる直前まで携帯電話を使用していた場合、月々の利用料金や、機種本体代金の未払い分について、契約している携帯電話会社から請求されることがあります。

どのような対応をすればよいでしょうか。

相続放棄をした場合には、支払い義務はない

すでに相続放棄の手続きが完了している場合には、携帯電話の未払い料金について支払い義務はありません。

相続放棄をすると、携帯電話の未払い(債務)についても、相続放棄をしたとされるからです。

必要であれば、契約している携帯会社に「相続放棄している」旨の連絡をするのもよいでしょう。

▶KDDI(au)サイト※携帯電話について
「契約者が亡くなった場合、未払料金はどうなりますか?」
▶ソフトバンクのサイト※固定電話・インターネット回線について
「契約者死亡に伴う解約の手続き方法を教えてください。[SoftBank 光/SoftBank Air/おうちのでんわ など]」

被相続人の相続財産から携帯料金を払ってはいけない

未払いの携帯料金を被相続人の遺産から支払う行為が、相続財産(この場合は未払料金という債務)の処分行為とみなされた場合には、「法定単純承認」の意思があったと判断されてしまいます。

被相続人の預貯金から携帯料金の支払いをすることは、相続放棄に影響を与える可能性が高いため避けた方がよいでしょう。

請求が気になるようであれば、契約している携帯会社に「携帯電話の契約者本人が死亡したこと」「相続放棄する予定があること」の連絡をしましょう。

3.相続放棄をする場合の手続きと注意点

相続放棄の手続きについて

相続放棄には期限があり、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に手続きをしなければなりません。

ただし、相続財産の調査に時間がかかる場合には「相続放棄の期間の伸長申立て」という手続きを行えば相続放棄の期間を延長することも可能です。


相続放棄をするには、必要書類を準備し、相続財産調査を終えた後に、家庭裁判所に相続放棄の申述をします。

申述書の提出後に、家庭裁判所から照会書が届きますので、必要事項を記入して返送します。

こうして相続放棄の申述が裁判所に受理されると、相続放棄申述受理通知書が届きます。

▶相続放棄について詳しくはこちら※リンク先探す

【まとめ】携帯電話に関する手続きをする前に、弁護士にご相談を

相続は突然発生するものですので、時間のない中で遺品整理や遺産分割などの相続手続きを慌ただしく進めてしまいがちです。

しかし、後になって多額の借金や、管理の難しい不動産(空き家、不要な土地、農地など)が相続財産に含まれていることが発覚しても、相続放棄の期限が過ぎてしまっていたり、単純承認してしまっていたりすると相続放棄ができなくなってしまいます。


そのため、相続手続きを始める前に、きちんとした相続財産調査をすることが重要になります。

▶関連コラム「相続財産調査はなぜ必要?調べ方と対象となる財産について」

また、相続人が被相続人の遺産を勝手に処分してしまった場合、法定単純承認となり相続放棄が認められなくなりますので注意が必要です。

今回のコラムでは、故人の携帯電話の解約や名義変更、機種本体の売却、未払いの携帯電話料金の支払いについての注意点をご紹介しましたが、相続放棄をする場合にはほかにも気をつけなければならない行為があります。

▶関連コラム「賃貸アパートを解約してしまったら、相続放棄できなくなる?」

相続トラブルを避けるためにも、相続財産調査、相続人調査、遺産分割協議、相続放棄など、相続に関する手続きを行う前に、一度、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

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