コラム

2021.05.24

コラム

遺言書

紀州のドン・ファンの遺言(弁護士:海津 諭)

「紀州のドン・ファン」ことN氏が2018年に亡くなったことについて、先日、N氏の妻が殺人などの容疑で逮捕、起訴されました。

亡くなった当初から他殺の可能性が指摘されていたことや、さらにN氏の地元である田辺市に多額の遺産を寄付するという遺言があったことなど、しばらくの間、ワイドショーなどを賑わせていたことを記憶されている方も多いと思います。

 

N氏作成の遺言書は…

 

インターネット上に、N氏が書いたとされる遺言書の写真が掲載されていました。

赤字のペンで「いごん」というタイトルの次に、「個人の全財産を田辺市にキフする」と書かれ、さらに日付が記載されて、署名の下にハンコも押されています。

形式の面では、自筆証書遺言の要件をみたしていると考えられます。

 

遺言無効の裁判について

 

しかし、上記の遺言については、N氏の兄弟姉妹(以下「きょうだい」とします)の一部が、遺言の無効を主張して2020年に裁判を申し立てました。

申し立てた理由としては、“今回の遺言がN氏の意思で作成されたとは考えられない”と主張しているようです。

 

今回の遺言がもしも有効である場合、価値にして13億円以上といわれる遺産の全額は、遺言のとおり田辺市が取得することとなります(なお、遺留分の権利者が遺留分を田辺市に請求する可能性はあります)。

 

逆に、今回の遺言が無効である場合、N氏のきょうだいは全員で4分の1の法定相続分を得ることとなります。

報道によればきょうだいは6名なので、一人あたりの法定相続分は24分の1、価値にして一人あたり5000万円以上の金額となります。

 

2021年5月現在、上記の遺言無効の裁判は結論が出ていないようです。

そのため、N氏が、地元である田辺市に対して恩義や好意などの気持ちで全財産を相続させようと思ったのか、それとも遺言が偽物であるのかは、現時点では分かりません。

 

法律家として感じたこと2つ

 

 

今回のケースを通じて、法律家として感じたことが2つあります。

 

1つは、「付言事項」の大事さです。

遺言の文章中には、財産をどのように分けるかという事項の他にも、付言事項(ふげんじこう)といって、相続人に宛てたメッセージなどを書くことができます。

 

例えば、法定相続人以外の誰か(親族、友人、市町村、公益団体など)に対して多額の財産を相続させたいのであれば、なぜそのように考えるのか、その「誰か」からこれまで受けた恩や、好意を抱いて支援したいと考える理由などを、付言事項として書いておく方が良いです。

その付言事項で故人の遺志が具体的に理解できることによって、法定相続人も、遺言の内容について不満や不信を抱かずにすむ可能性が高まります。

 

もう1つは、生活の変化に応じて新しい遺言を作っていくことの大事さです。

遺言は、一度作ったら、新しい遺言を作るまでは効力をもち続けます。

 

例えば、ある人が独身で家族がいないとき、自分の地元の市に全財産を相続させたいと考えて遺言を作ったとします。

その後、その人が結婚して、結婚相手に財産を相続させるという考えに変わったとしても、新しい遺言を作らない限りは、市に全財産を相続させるという遺言がそのまま効力を持ち続けてしまうのです。

 

相続が不本意な結果となってしまわないよう、例えば1年に1回くらいは、自分の書いた遺言の内容が現在の気持ちと食い違っていないかを考えるのが大事なことです。

 

一新総合法律事務所では、遺言書の作成から既に作成された遺言書の点検、遺言執行までをご支援いたします。

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この記事を執筆した弁護士

弁護士 海津 諭

海津 諭
(かいづ さとる)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:京都大学法科大学院修了
新潟県公害審査委員、新潟県景観審議会委員を務めています。
主な取扱分野は、相続全般(遺言書作成、遺産分割、相続放棄、遺留分請求など)です。そのほか、離婚、金銭問題、その他トラブルなど幅広い分野に精通し、相続・生前対策セミナーの講師を多数務めた実績があります。
また、『月刊キャレル』(出版:新潟日報事業社)に掲載のコーナー「法律相談室」に不定期で寄稿しており、身近な法律の疑問についてわかりやすく解説しています。

 

 

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