
相続が発生すると、被相続人(亡くなった方)の相続財産を受け取る権利を有する人は法律で定められています。
本記事では、法定相続人の基本から、法定相続人の範囲、相続順位の仕組み、相続できない場合の条件などを徹底解説します。
1.法定相続人とは
「法定相続人」とは、民法に基づいて相続できる権利を持つと定められた人たちのことです。
法定相続人に該当するのは、被相続人の配偶者や、子どもと親、祖父母や兄弟姉妹などで、法で定められた順位に従って相続権が移ります。
法定相続人の確認方法
相続が発生した際に相続の対象となる人を確認するためには、被相続人が出生してから死亡するまでの全てが記載された「戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)」「戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)」「除籍謄本(除籍全部事項証明書)」「原戸籍(改製原戸籍)」などの書類を取り寄せ、確認する必要があります。
戸籍謄本は被相続人の本籍がある市町村役場で発行します。
最近では、郵送、電子申請、コンビニでの発行に対応している自治体もありますので各市町村のHP等で確認しましょう。
戸籍謄本の取り寄せ方については下記コラムにて詳しく解説していますのでご参考になさってください。
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相続放棄や遺産分割で必要|戸籍謄本の取り寄せ方
2.法定相続人の範囲と順位について
法定相続人は、大きく分けて、子、直近の直系尊属(父母など)、兄弟姉妹という3つの順位に分けられます。
順位が上の血族がいる場合、下の順位は原則として相続人になりません。

被相続人の配偶者は常に相続に関与する特別な立場にあります。
そして、第一順位として子(直系卑属。ただし、代襲相続及び再代襲相続あり。)、第二順位として親(直近の直系尊属、そして第三順位として兄弟姉妹(傍系血族。ただし、代襲相続あり。)という順番で相続します。(※1)
相続権は相続順位が優先されるため、自分より優先順位が上の法定相続人がいる場合は、下位の人は法定相続人とはなりません。
※1:代襲相続とは、子が先に死亡した場合、又は欠格、廃除された場合に、子に代わってさらに子の子がが相続人となることをいいます。再代襲とは、子の子にも代襲原因がある場合にはさらに子の子の子が相続人となることをいいます。傍系血族の場合は、再代襲はありません。
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代襲相続と相続放棄を中心に、何世代かに関わる相続関係や相続問題をわかりやすく解説しています。
配偶者の扱いと相続権
前述したとおり、配偶者は特別な地位にあり、必ず相続人となります。
ただし、配偶者の範囲には法律上の正式な婚姻関係を結んだ相手が該当し、内縁関係や事実婚の場合は相続の対象外とされます。
相続分は、配偶者以外の相続人の構成によって変わります。
例えば、子がいる場合は配偶者が2分の1、子が2分の1を分け合う形になりますが、子がいない場合は親との関係で配偶者が3分の2、親が3分の1となるケースがあります。
第1順位:子(直系卑属)
子が相続開始前に死亡している場合、その子の子(つまり被相続人の孫)に相続権が代襲されます。
なお、子どもが被相続人の婚外子であり認知した子であった場合も、嫡出子とは細かな扱いが異なりますが、いずれも一定の範囲内で法的な権利が保障されています。
また、養子縁組によって子として扱われるケースも同様に法定相続人となります。
くわしくは「5.【特殊なケース】養子・内縁など」で解説しています。
第2順位:直近の直系尊属(父母など)
子・孫などの直系卑属がいない場合に相続権を得るのが、父母や祖父母などの直系尊属です。
父母のどちらかが亡くなっている場合には、存命中の父母が相続分を引き継ぎます。
さらに、父母がどちらも亡くなっている場合に、祖父母が存命であれば祖父母に相続権が移る可能性があります。
ただし、「直近の直系尊属」として被相続人の養親がいる場合には、祖父母ではなく養親が相続人となります。
第3順位:兄弟姉妹・甥姪
第1順位及び第2順位がいない場合、兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹が先に亡くなっていた場合は、代襲相続が発生し、その子(被相続人にとっての甥姪)が相続権を引き継ぎます。
ただし、相続人の兄弟姉妹の代襲相続は、子のみの一代に限られているため、その孫やひ孫は含みません。

3.相続できる割合は?法定相続分と遺言の関係
民法は、「法定相続分」として、以下のとおり定めています。
相続人 | 法定相続分 |
① 子と配偶者が相続人であるとき | 子の相続分と配偶者の相続分は、各2分の1 |
② 配偶者と直系尊属が相続人であるとき | 配偶者の相続分は3分の2、直系尊属の相続分は3分の1 |
③ 配偶者と兄弟姉妹が相続人であるとき | 配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は4分の1 |
④ 相続人が数人あるとき | 各自の相続分は、相等しいもの。 ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1とする。 |
遺言がある場合
遺言は、遺言者本人が亡くなった後に効力を持つものであり、法律で定められた範囲内で内容を決めることができます。
- ① 身分関係に関する事項(遺言認知など)
- ② 相続の法定原則の修正(相続分の指定、推定相続人の廃除など)
- 遺言により、先の法定相続分を修正することができます。
- ③ 遺産の処分に関する事項(遺贈など)
- 遺言により、相続人以外の人に遺産を譲渡することができます。
- ④ 遺言の執行に関する事項(遺言執行者の指定など)
このほか、民法に定めはありませんが、祭祀主宰者の指定や、特別受益の持戻し免除(生前に特別な援助を受けた人について相続分を減らさないようにすること)なども、遺言で定められると解釈されています。

4.法定相続人であっても相続権がないケース
次に、法定相続人に該当する場合であっても、相続権がないケースがないケースについて解説します。
①相続放棄をした場合
相続放棄とは、相続の権利を放棄することで、その相続に関して初めから相続人でなかったものとみなされるものです(民法939条、相続放棄の遡及効)。
相続放棄のための期間(熟慮期間)は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内にする必要があります(民法915条1項、3か月以内に放棄しないと921条1項2号により法定単純承認となります)。
相続財産に多額の負債が含まれていた場合などに、その遺産を引き継ぎたくないときに利用されるケースが多く、一度手続きが完了すると、遡って覆すことは原則できません。
相続放棄をすると代襲相続も発生しない!
相続人が相続放棄をした場合、代襲相続は発生しません。
たとえば祖父が死亡した場合に、父親が相続放棄の手続きを行うと、その子は祖父の遺産相続しないことになります。
なぜなら、父親が相続放棄をすると、はじめから父は相続人でなかったことになるため、子どもへの代襲相続は発生せず、相続権もなくなるからです。
②相続欠格に該当する場合
相続欠格とは、被相続人を故意に死亡させたり、詐欺や脅迫によって遺言書を作成させたりなどのような、相続欠格事由に該当する重大な違法行為があり、相続権が発生しない場合をいいます。
被相続人の意思を著しく侵害する行為は、法で厳しく処罰される仕組みです。
父の遺産相続で子が相続欠格に該当した場合でも、相続の権利は子の子(つまり被相続人の孫)に代襲相続されます。
③相続廃除に該当する場合
また相続廃除は、被相続人に対する虐待や重大な侮辱をしたり、著しい非行があったりした場合に、被相続人がその相続人の相続権を剥奪(はく奪)する場合です。
被相続人が生前に家庭裁判所へ請求するか、遺言書により廃除の意思表示をして、死後に遺言執行者により家庭裁判所に申立を行い、審判で認められれば廃除は完了します。
相続廃除により相続権を失うケースでも、相続欠格の場合と同様に、被相続人(父)と相続人(子)の関係で相続廃除が成立していても、被相続人(祖父)と代襲相続人(孫)との関係で相続廃除事由が存在するわけではないので、代襲相続は発生します。

5.【特殊なケース】養子・内縁など
家庭の事情によっては、養子縁組や内縁・事実婚など、多様な形態の家族が存在します。
こうしたケースでは、一般的な親子や婚姻関係とは別の観点から相続権の有無を判断しなければなりません。
①養子がいる場合
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類がありますが、いずれの場合でも、養子は養親の実子と同じ相続分を持ちます。
ただし、普通養子縁組の場合は実親との親子関係も続いているため、実親が亡くなったときにも相続人となることができ、二重に相続できるのが特徴です。
一方で、特別養子縁組の場合は、実親との法的な親子関係は完全に消滅しているため、実親が亡くなっても相続権はありません。
結婚相手の連れ子は相続できる?
結婚相手の連れ子と養子縁組をしている場合、あなたと法的に「親子関係」が成立するため、養親(あなた)の実子と同じ相続権を持ちます。
一方で、養子縁組をしていない場合には、その子は法定相続人にはなりません。結婚しただけでは、配偶者の子とあなたの間に法的な親子関係は生じないからです。
養子縁組はせずに連れ子に遺産を渡したい場合には、遺言書を作成し相続分を指定する、生前贈与を行うなどの方法があります。ただし、他の相続人の遺留分や、贈与税などに注意が必要です。
②内縁関係や事実婚パートナーがいる場合
内縁関係や事実婚は、法律上の婚姻ではないため、相続権が原則として認められません。
長年同居していても、戸籍上の配偶者でなければ法定相続人として扱われないのが現状です。
もし財産を内縁の妻(または夫)に残したい場合は、生前に遺言書を作成することが有効な手段となります。
ただし、他の相続人には遺留分があるため、全財産を譲ることが難しい場合もあります。
事実婚パートナーとの間に子がいる場合、その子は法律上の嫡出子とは見なされないケースもあります。
子どもに財産を相続させるためには、認知手続きを行うなど、子どもの立場を法律的に確立させる必要があります。
③胎児や未成年者に相続権はある?
民法上、胎児も相続においてはすでに生まれたものとして扱われる規定があります。
つまり、被相続人の死亡した相続開始時に子がまだ母体にいる場合でも、その子には相続権が認められるのです。
ただし、実際に相続手続きで財産を受け取る際には生まれてから確定となるため、出産の時期によって相続手続きには注意を払う必要があります。
未成年者が相続人になる場合は、通常、親権者や後見人が代理で手続きを進めることになります。
相続後の財産管理についても安全に保全するために、成年後見制度や遺言信託を活用するケースもあります。
6.相続人が誰もいない場合
では、法定相続人が一人もいない場合、あなたの遺した財産はどうなるのでしょうか。考えられるパターンについてご紹介します。
特別縁故者への財産分与
被相続人の両親(祖父母も含め)がすでに他界し、配偶者・子どもがおらず、兄弟姉妹もいないなど、法定相続人が存在しないケースでは、特別縁故者に相続財産の分与を行う制度があります。
「特別縁故者」とは、内縁の配偶者や、事実上の養子、生前に被相続人と生計を共にしていた人、被相続人の身の回りの世話をしていた人など特別な関係にあった人を指します。
ただし、特別縁故者の定義は民法で定められており、以下のいずれかの要件に当てはまらない場合には特別縁故者とは認められません。
【特別縁故者の要件】 ①被相続人と生計を同じくしていた者 ②被相続人の療養看護に努めた者 ③その他被相続人と特別の縁故があった者 |
特別縁故者となるためには、被相続人の死後、所定の期間内に特別縁故者の申し立てを家庭裁判所に行い、特別縁故者として認められる必要があります。
なお、特別縁故者に対する財産分与が認められるのは法定相続人が不存在の場合だけです。
どんなに被相続人と疎遠であっても法定相続人がいる場合には、特別縁故者への財産分与はないため注意が必要です。
特別縁故者がいない場合は国庫に帰属
法定相続人も特別縁故者もいない場合には、最終的には残された財産は国庫に帰属することになります。
一般的には家庭裁判所が選任する相続財産清算人(※2)が財産を整理し、借金などがある場合は債権者への支払いなど必要な処理が完了した後、残った財産が国に帰属する仕組みです。これは法的な相続人の不在により財産の受け取り手がいなくなることを防ぐためです。
(※2:「相続財産管理人」は民法改正(2023年4月1日)により「相続財産清算人」へ名称変更となりました。)
配偶者や子どもがいない、いわゆるおひとりさまのケースにおいて、法定相続人はだれになるのか、相続人がいない場合に相続人ではない第三者に遺贈したい場合の対処法などについて知りたい方は、下記コラムにて詳しく解説していますのでご参照ください。
【関連記事】
「配偶者なし・子なし・親なし・兄弟あり」の場合は誰が相続する?

7.遺留分について
遺留分とは、生前贈与や遺言書によっても奪えない相続人に法律上確保された最低限度の財産をいいます。
遺留分を請求できるのは、配偶者・子・直系尊属など限られた範囲の相続人のみです。兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
たとえば、父親がなくなり、法定相続人として長男・次男・三男の3人がいるケースで、「長男に全て相続させる」という内容の遺言書が残されていた場合、原則的には、相続財産は長男一人が全て相続することになります。
しかしこのケースでは、他の相続人である次男、三男にもそれぞれ相続財産の6分の1の遺留分があります。
そのため、次男や三男もそれぞれ相続財産の6分の1を相続することが可能となります。
ただし、遺留分侵害額請求には期限があるため、弁護士などの専門家に早めにご相談することをおすすめします。
【関連記事】遺留分について
遺留分について知りたい方は上記コラムをご参照ください。
8.よくある質問Q&A
相続の場面で発生する疑問について、かんたんに要点をまとめました。
相続トラブルは家族ごとに事情が異なるため、個別の状況を踏まえた対応が不可欠です。
状況に応じて該当項目以外の問題も生じるかもしれませんので、早めに相続の専門家へアドバイスを求めましょう。
Q1. 離婚した元配偶者に相続権はある?
離婚後は法的な婚姻関係が解消されていますので、元配偶者には相続権はありません。
ただし、元配偶者との子どもは、離婚しても法的な親子関係は消滅しませんので、あなたの相続人となります。
Q2. 行方不明の相続人がいる場合、どう手続きを進める?
遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないため、相続人の中に長年行方不明の人がいる場合は協議を進めることができず手続きが滞ります。
そのようなときは家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる方法が一般的です。
不在者財産管理人が選任されると、その管理人が不在者の利益を代表して遺産分割協議に参加できます。
Q3. 借金がある遺産を相続するときの注意点は?
遺産を相続すると、原則としてプラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
借金の存在が大きい場合には、相続放棄や限定承認を検討しましょう。
相続放棄では一切の相続をしないことになりますが、限定承認ならプラスの範囲内で負債を支払う方法を取ることができます。
ただし、いずれも期限や手続きが厳格に定められているので注意してください。
まずは負債の総額や資産価値を正確に把握し、期限内に手続きを行う必要があります。
【関連記事】親の借金は相続放棄すれば解決?誰が払うことになる?
相続放棄手続の方法とトラブル回避のポイントについて詳しく解説しています。
9.まとめ 相続でお困りの場合は弁護士へ
相続権が及ぶ範囲も、民法により法定相続人や法定相続分は定められています。
しかし、遺言の有無や、生前贈与、特別受益など、個々のケースごとに発生する問題は異なっているため、取るべき対応や判断が複雑になりがちです。
ちょっとした行き違いから、相続争いになり訴訟に発展してしまうケースも少なくありません。
相続が発生したら、相続人や相続財産の状況、遺産分割協議をする上での進め方について不安に思う点を弁護士にご相談ください。
トラブルが発生する前に弁護士に相談することで、法的な視点からアドバイスでき、リスクを最小限に抑えることが可能になります。
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