【事案の概要】
Aさんは、父母の離婚後、母とともに生活しながら、父であるWさんが経営するC社で、社長のWさんを手伝ってきました。
Wさんは、Aさんを会社の跡継ぎにしたいと言っており、Aさんもそのつもりでいました。
Wさんは、Aさんの母と離婚後、Hさんと再婚しましたが、WさんとHさんとの間には子はおらず、Wさんの子はAさんのみでした。
C社の株式は、Wさんが3分の2、Wさんの再婚相手であるHさんが3分の1を所有していますが、Hさんは、C社の経営には関与していませんでした。
そんなある日、Wさんが急死してしまいました。
Aさんは、自分がWさんの跡を継いでC社を経営するつもりでしたが、これまでC社の経営には関わって来なかったHさんが、今後は自分が社長になると言い張って譲りません。
Aさんは困り果てて、弁護士に相談にいらっしゃいました。
弁護士は、C社の株式のうち、Wさんの持ち分3分の2については、妻であるHさんと子であるAさんがその2分の1ずつを相続する権利があることを説明しました。
そして、HさんはもともとC社の株式全体の3分の1を持っていますから、相続分と合わせた持ち分は3分の2となり、持ち分3分の2を所持していれば、株主総会における特別決議が可能となるので、HさんがC社を経営することが可能となってしまうとのことでした。
Aさんは弁護士に、Wさんが生前、Aさんを後継者にしたいと言っていたことを説明しました。
弁護士はAさんに、Wさんの遺言書がないか確認してみるように助言しました。
遺言書を探すときには、自宅や会社を探すことに加えて、公証役場に連絡して公正証書遺言が作成されていないか確認してみるように、とのことでした。
Aさんは、自宅や会社で遺言書を探しましたが見つからなかったため、最寄りの公証役場に連絡して、Wさんの公正証書遺言が作成されていないか確認しました。
すると、Wさんの公正証書遺言が作成されており、公証人が原本を保管していることが判明しました。
Wさんの公正証書遺言には、C社の株式持ち分3分の2を全てAさんに遺贈すること、Hさんには預金を遺贈することなどが記載されていました。
Aさんは再び弁護士を訪ね、遺言書が作成されていたことを伝えて遺言執行を依頼しました。
その後、弁護士が遺言執行者として株式の名義書換え等の手続きを行い、C社については、Wさんの希望どおり、Aさんが跡を継いで経営していくこととなりました。
【弁護士の解説】
被相続人が株式を保有していた場合、株式の相続人を指定する内容の遺言がないまま被相続人が亡くなってしまうと、その株式は相続人が準共有している状態となります。
準共有の状態では誰がその株式に関する株主かが定まっておらず、その後の遺産分割協議によって、正式に株式の承継者を決めることとなります。
この事例のように、被相続人がある会社の株式の大部分を保有していた場合、株式の承継者が決まるまでのタイムラグが会社経営に悪影響をもたらすおそれがあります。
また、会社経営について後継者となろうとしている相続人が株式の過半数(確実に経営権を獲得するには3分の2)を保有できないと、その後の円滑な経営に支障をきたしてしまうおそれもあります。
そこで、経営権争いを避けるためにも、この事例のWさんのように、株式を後継者に遺贈する内容の遺言書を作成しておくことをお勧めします。