(事案)
Aさんの父(Xさん)が亡くなりました。
Aさんの母は数年前に亡くなっており、Xさんの相続人は、Aさんの他に、妹のBさんと弟のCさんです。
Xさんの遺産としては、AさんがそれまでXさんと同居してきて、現在もAさんが居住している自宅の土地建物、預金、そして自宅内に保管されている絵画や掛け軸といった骨董品がありました。
Xさんの四十九日法要が終わった後、Aさん、Cさん、Cさんは、遺産分割協議を行いました。
その結果、自宅の土地建物と骨董品をAさんが相続し、預金をBさんとCさんが2分の1ずつ相続するという内容で話がまとまって、その内容で遺産分割協議書が作成されました。
なお、骨董品については、納戸に保管してありましたが、Aさんはわざわざ確かめに行くのを面倒に思い、記憶に基づいて作者や作品名を遺産分割協議書に記載しました。
ある日、Aさんが掃除をしようと納戸へ行ってみたところ、骨董品がなくなっているのに気付きました。
Aさんは、BさんとCさんに連絡して骨董品について聞いてみたところ、Bさんが、Xさんの亡くなった翌日に骨董品を持ち出していたことを告白しました。
しかし、BさんはAさんに対し、「既に古物商に売却してしまったので手元になく、返すことができない」と言いました。
そこで、Aさんは、弁護士に相談しました。
弁護士は、Aさんに対し、まず、骨董品を買い取った古物商がAさんらの相続に関しては詳細な事情を知らないことから、骨董品自体を取り戻すことは難しいということを説明しました。
そして、骨董品の取戻しではなく、Bさんから骨董品の価値分の損害賠償を受けることで解決すべきというアドバイスを行いました。
Aさんは、弁護士から受けたアドバイスをBさんに伝えました。
そして、骨董品をいくらで売却したのかについて資料を見せるように求め、Bさんから売却時の明細書を提示してもらいました。
Aさんは、妹であるBさんと争うことは本意ではなかったことや、明細書に表示されている骨董品の売却額に納得したことから、売却額と同じ金額を支払ってもらうことによる解決をBさんに提案しました。
Bさんは、Aさんの提案に応じて、Aさんに売却額と同じ金額を支払いました。
この支払いによって、Aさんは満足のいく結果を得ることができました。
【解説】
民法では、遺産分割は、相続開始時にさかのぼって効力を生じることとされています(「遡及効(そきゅうこう)」といいます)。
したがって、相続開始後、遺産分割前に、相続人の一人が遺産を持ち去って、遺産分割によって別の相続人がその遺産を取得した場合には、遺産分割によって遺産を取得した相続人は、遺産を持ち去った相続人に対し、その遺産の返還を求めることができます。
また、その遺産自体の返還が困難な場合には、その遺産の価格に相当する金額を損害賠償として請求することができます。
なお、遺産分割の遡及効は、第三者の権利を害することはできないこととされていて、事情を知らない第三者が遺産を取得している場合にはその第三者に返還を求めることはできません。