1 はじめに
遺言は、民法によっていくつかの方式が定められています。
その中で、実際に作成されている遺言のほとんどは、公正証書遺言と自筆証書遺言です。
その他の方式の遺言は、わずかしか作成されていません。
今回は、公正証書遺言と自筆証書遺言について、件数を比較しながら特徴を紹介したいと思います。
2 公正証書遺言の件数
現在、一番多く作成されていると考えられる遺言が、公正証書遺言です。
公正証書遺言が作成されている件数は、2018年には11万471件でした。
10年前の2008 年は7万6436件であり、作成件数がこの10年で約1.5倍 に増加しています。
3 公正証書遺言の特徴
公正証書遺言は、公証役場において作成する遺言で、原本が公証役場に保管されます。
そのため、紛失してしまう危険性がなく、他人によって破棄または改ざんされてしまう危険性もありません。
また、遺言の文章が適切であるかを公証人が事前に チェックするため、無効となってしまう危険性や、作成者の真意と異なる内容になってしまうという危険性もほぼありません。
公正証書遺言は、安全性の面で優れた遺言であるといえます。
4 自筆証書遺言の件数
二番目に多く作成されていると考えられる遺言が、自筆証書遺言です。
自筆証書遺言は、作成者が自分で作成しておくもので あるため、正確な作成件数は把握できません。
しかし、自筆証書遺言を作った人が亡くなると、裁判所において 「検認」という手続きが必要となります。
そこで、検認がなされている件数と、その推移を見ることで、自筆証書遺言の現在の作成件数が推測できます。
検認のなされた件数は、2016年には1万7205件でした。
2008年には約1万3632件であり、公正証書遺言と同じように増加傾向にあります。
この件数と増加傾向を考慮すれば、現在において自筆証書遺言が作成されている件数は、多くとも年間数万件程度ではないかと推測できます。
したがって、自筆証書遺言が作成されている件数は、 公正証書遺言の半分以下であるといえます。
5 自筆証書遺言の特徴
自筆証書遺言は、費用をかけずに作成できるものの、 紛失、破棄または改ざんの危険性があります。
また、書き方が法律上のルールを満たしていなければ無効となってしまいます。
さらに、文章が適切でないと、無効となる危険性や、作成者の真意と異なる内容になってしまう危険性もありま す。
6 法改正と今後の予測
自筆証書遺言については、この度の法改正でルール が緩和されて、遺産目録部分は手書きで書かなくても良いことになりました。
また、2020年7月から、自筆証書遺言を法務局に有料で預けることができるという制度が始まります。
この制度を使えば、 5で記載した危険性のうち、紛失、破棄または 改ざんの危険性や、書き方が法律上のルールを満たさない危険性はなくなるといえます(法務局に預ければ、検認の手続きを省略できるという利点もあります)。
これらの法改正の影響で、今後は、自筆証書遺言の作成件数が増加すると予測できます。
ただし、自筆証書遺言を預ける際に、法務局は文章の 適切・不適切まではチェックしてくれません。
そのため、文章の意味が曖昧で無効になってしまう危険性や、作成 者の真意と異なる内容になってしまう危険性が、依然として残ります。
遺言を作成する際には、弁護士にご相談の上、可能な限り公正証書遺言で作成することをお勧めします。
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◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年6月5日号(vol.233)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。