コラム

2019.06.14

コラム

遺留分の侵害

相続法改正~遺留分制度の見直し・特別の寄与の制度~

仮想事例1. 遺留分の金銭債権化

(1)現行法での取扱い

現行法では、花子の請求は「遺留分減殺(げんさい)請求権」と呼ばれています。

花子が権利行使をした場合、一郎の遺言の効力が遺留分侵害額700万円の限度で覆り、遺言で太郎に相続させることとされていた非公開株式と工場用不動産は、太郎と花子との間で共有状態となります。

そのため、共有状態の解消のために時間と費用がかかってしまう点が問題でした。

 

(2)改正法での取扱い

花子は、遺留分の権利を行使することにより、太郎に対し、遺留分侵害額700 万円に相当する金銭の支払いを請求できます(改正民法1046 1 項)。

改正法は、「遺留分侵害額請求権」と名称を変更して、共有状態が生じる現行法の不都合を解消しました。

本件では、太郎への事業承継が円滑に行われることが期待できます。

 

仮想事例2. 遺留分と生前贈与

仮想事例2

(1)現行法での取扱い

結婚資金として太郎に贈与された200 万円が遺留分算定の際に考慮され、花子の遺留分が700 万円から750 万円に増加します。

現行法では、原則として特別受益に該当する生前贈与を全て遺留分算定の際に考慮しており、あまりにも過去にさかのぼった生前贈与も考慮されることによって、事案の解決に多くの時間がかかっていました。

(2)改正法での取扱い

相続人に対する生前贈与の範囲につき、相続開始前の10 年間にされたもののみを算入することとし(改正民法10443 項)、現行法の問題点を解消しました。

本件では、太郎に対する結婚資金の生前贈与は15 年前になされており、遺留分の計算上考慮しません。

仮想事例3. 特別の寄与の制度について

(1)現行法での取扱い

陽子は一郎の遺産の維持に寄与しています。

しかし、現行法上、陽子に財産を与える旨の遺言があった場合や、陽子の相続人に対する不当利得返還請求 が認められる場合を除いて、陽子のような立場の者が一郎の遺産から何らかの給付を得られる明示的な制度はありませんでした。

このような取扱いでは、陽子のような者の貢献が報われることがなく、不公平ではないかとの疑問がありました。

(2)改正法での取扱い

改正法は、相続人以外の者であっても、被相続人の親族が被相続人の遺産の維持または増加に寄与したと認められる場合に、当該親族が寄与したと評価できる金銭の支払いを相続人に対して請求できる制度を新設しました(改正民法1050 1 項)。

本件では、陽子は、花子に対し、寄与料300 万円を支払うことを請求できます。

特別寄与料の支払いについて、当事者間の協議が調わない場合には、陽子は、裁判所に対して、協議に代わる処分を申し立てることができます。

ただし、陽子が相続の開始(一郎が死亡したこと)及び相続人(花子の存在)を知った時から6 か月を経過したとき、又は相続開始の時から1 年を経過したときには、申し立てることができなくなるため(同条2 項ただし書)、迅速な対応が必要となります。

改正法の施行日(いつ発生の相続から適用になるのか)

上記改正法(遺留分制度の見直し・特別の寄与の制度)は、201971日から施行されます。

そのため、同年63 0日までに相続が発生した場合には現行法が適用され、同年71日以降に相続が発生した場合には上記改正法が適用されます。

※注釈

1 遺留分とは、相続人に最低限認められる相続分をいい、遺留分侵害額とは、相続人が実際に相続した財産の額が遺留分額に満たない額をいいます。

遺留分侵害額請求は、遺留分侵害の状態を是正するための法的手段です。

2 不当利得返還請求権とは、自分に損失が生じたことによって正当な理由なく利益を受けた者がいる場合、その者に対して、利益を受けた額を返還するように請求できる権利を言います。

本件では、陽子が一郎を無償で介護したことによって、本来支出されるはずであった一郎の介護サービス料相当額につき、一郎の相続人である花子が利益を受けているといえる余地があります。

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 薄田 真司

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年5月5日号(vol.232)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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