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2025.06.02

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遺産分割

相続人の一人が遺産分割協議に応じない場合~対処法からリスクまで徹底解説~

相続人の一人が遺産分割協議に応じない

遺産分割協議は、相続人全員が合意することで初めて成立します。

しかし、相続人のうち一人でも話し合いを拒否していたり、協議内容に納得できず遺産分割協議書に押印してくれないなどの場合は、遺産分割協議全体の手続きが止まってしまう原因となります。


相続税の申告をはじめとする各種相続手続きの期限が迫るなか、協議を先延ばしにするリスクは想像以上に大きく、そのまま放置すれば二次相続に発展したり、相続財産の使い込みが発生したりする可能性もあります。


この記事では、協議に応じない背景にある理由から、協議に応じない相手への具体的な対処方法まで、詳しく解説していきます。

ぜひ最後までお読みいただき、スムーズな遺産分割協議の実現にお役立てください。

1.相続人の一人が遺産分割協議に応じない主な理由・ケース

協議を拒む背景にはさまざまな事情が存在しますが、ここでは主な要因についてご紹介します。

【遺産分割協議に応じないよくあるケース】
①感情的対立・相続人同士の仲が悪い
②遺言書の内容に納得できない相続人がいる
③相続財産の管理者が信用できない
④特定の相続人にだけ多額の生前贈与があった
⑤寄与分・特別の貢献をめぐる対立
⑥遺産分割協議に関わりたくない

感情的対立・相続人同士の仲が悪い

親族間の長年の確執や遺産分割と関係のない個人的な対立があると、遺産分割の話合いすら拒否されるなど、協議を進めにくくなる場合があります。

相続人間の感情的な衝突は法的視点だけでは解決が難しく、コミュニケーションの調整が必要です。

人間関係を修復することが難しい場合は、弁護士など第三者の専門家を交えることで話し合いが円滑に進む可能性があります。

遺言書の内容に納得できない相続人がいる

遺言が残されていた場合、原則的には被相続人の意思が優先されますが、書かれていた内容が法定相続分とかけ離れているなどの場合は不満を抱く相続人が出てくることがあります。

これが原因で協議が進まない場合、まずは遺言が法律的に有効なのかを確認したうえで、異議がある相続人と話し合う必要があります。

相続財産の管理者が信用できない

相続財産の内訳や評価額が不明確だったり、相続財産を管理する者が情報を開示しないと、「勝手に使っているのでは?」「財産を隠して独り占めしているのではないか?」といった不信感が高まり、他の相続人が納得せず協議を拒否することがあります。

協議が滞っている背景に管理への不安があるなら、公平性を確保するために専門家の意見や書類の明確化を図ることが重要です。

特定の相続人にだけ多額の生前贈与があった

生前贈与を受けた相続人がいると、他の相続人は「これを特別受益として持ち戻してほしい」という思いを持ちます。

持ち戻しの有無が遺産分割協議の争点となり、協議が暗礁に乗り上げることも少なくありません。

弁護士に相談し、法的な観点から被相続人の意図や贈与の経緯を考慮しつつ、公平な分配を模索する必要があります。

生前贈与が特別受益に該当するかどうかの判断については下記コラムにて詳しく解説しています。

【関連記事】
特別受益にあたらない生前贈与とは?【相続争いの原因】特別受益を詳しく解説

寄与分・特別の貢献をめぐる対立

被相続人の介護や家業の手伝いなどに大きく貢献した相続人は、「寄与分」の主張できる場合があります。

寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献をした「特別な寄与」がある場合に、遺産分割の際に法定相続分を超える財産を相続できることを認める制度です。


しかしながら、ほかの相続人との認識に差があり、正当に評価されていないと感じる場合には衝突が発生します。

実績や貢献度を立証するのは容易ではない反面、協議の場できちんと説明しないと不公平感が増幅し、話し合いの進展を阻む要因となります。

寄与分については下記コラムにて詳しく解説しています。

【関連記事】
寄与分とは?親の介護などが寄与分と認められるために必要な要件

遺産分割協議に関わりたくない

協議に参加したくない背景に、現在相続財産を管理する者が、「なるべくそのまま自分が引き継ぎたい」、「相続財産を使い込んでしまった」など自分にとって都合が悪く話し合いを避けているケース考えられます。

また、単純に遺産分割自体の手続きの煩雑さや相続人間のいざこざなど面倒を避けるために協議に消極的な相続人も存在します。


協議に協力的でない相続人がいる場合、放置するとさらに手続きが長期化してしまう恐れが有ります。

まずは説得を試みることが大切ですが、疑わしい点がある場合には早めに弁護士に相談し、対応することが重要です。

2.遺産分割協議を放置するリスクとデメリット

遺産分割協議に応じてくれない相続人がいることで、話し合いが進まずに放置してしまった場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか。

【遺産分割協議を放置するリスクとデメリット】
相続税申告の期限を過ぎるとペナルティが生じる
②相続財産の使い込み・隠ぺいを招く恐れ
活用できないまま財産を放置するリスク
二次相続が発生すると手続きが複雑化する

相続税申告の期限を過ぎるとペナルティが生じる

遺産の総額によっては相続税の支払いが必要となりますが、その申告期限は被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内と定められています。

この期限を超えると、延滞税や無申告加算税が課せられるたり、相続税の軽減制度(配偶者の税額軽減など)を適用できなくなったりするため、予想外の経済的負担を受けることがあります。

相続財産の使い込み・隠ぺいを招く恐れ

協議が停滞している期間が長引くほど、財産管理の不安定さが増します。

特定の相続人が現金を動かしたり、骨とう品の売却や不動産の処分をしたりするリスクが高まり、使い込みや不正の発覚も遅れがちになります。

定期的に情報共有を行い、協議を再開するように働きかけることが望ましいです。

【関連記事】
相続財産(遺産)の使い込みがあった?よくあるケースと対処方法

活用できないまま財産を放置するリスク

預貯金や不動産などの相続財産は、本来なら有効活用して資産価値を高めたり、不必要な経費を削減したりすることが可能です。

しかし、協議が進まず名義変更もできない状態では、財産自体から利益を生み出すことが困難となります。

長期的な視点で見ると、結果として機会損失が生じる恐れがあります。

二次相続が発生すると手続きが複雑化する

遺産分割が行われない場合は、相続財産は基本的に相続人同士の共有状態とみなされます。

協議が長期化する間に相続人の一人が亡くなると、共有となっていた財産に対する権利は亡くなった相続人の子供に引き継がれる「二次相続」が発生します。

二次相続が発生すると、最初の分割協議以上に相続関係者が増えていくことになり、手続きが二重・三重に複雑になります。

こうした煩雑さを防ぐためにも、できるだけ早期に話し合いを完結させておくことが重要です。

3.遺産分割協議に応じない相続人への具体的対処法

協議に応じない相続人がいることで、遺産分割が進まない状況になった場合に取るべき対処法について具体的に解説します。

弁護士など専門家に相談する

感情のもつれや法律の知識不足などで行き詰まったら、弁護士や司法書士などの専門家に早めに相談しましょう。

感情的な対立を法的な観点から整理し、また、必要書類の整理や正確な情報発信をしてもらうことで、協議を円滑に進めるためのサポートができます。

家庭裁判所で遺産分割調停・審判を申し立てる

相続人間の交渉では協議がまとまらない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることになります。

調停では調停委員が間に入り双方の意見を調整し、合意形成を目指します。

調停が不成立の場合は「審判」へと進み、裁判所が最終的な判断を下します。

4.自身が遺産分割協議に応じたくない場合はどうする?

借金など負債の情報を知ってしまったり、遺産分割そのものに納得がいかなかったりなどの理由から自分自身が協議に参加したくない場合はどうすればいいのでしょうか。

遺産分割調停まで視野に入れる

協議に応じたくないという立場でも、話し合いそのものが完全に不要になるわけではありません。

裁判所による調停や審判などを経て遺産分割協議が強制的な決定に至る場合もあります。

ご自身の主張や希望を弁護士と整理しておくと、いざというときにスムーズに対応できます。

相続放棄を検討するという選択肢

預貯金などの積極財産よりも債務などの消極財産が多い場合や、家庭内のトラブルを避けたい場合には相続放棄(民法第938条)という手段があります。

相続放棄をする場合は、家庭裁判所に熟考期間内(相続開始を知ってから3か月以内)に申述する必要があります。

3か月以内に相続財産の調査が終了せず、相続を放棄するかどうか判断が難しい場合には、熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申立てることも可能です。

ただし、相続放棄は原則として撤回ができないため、慎重に決断しましょう。

遺言の有効性について訴訟で争う

遺言能力に疑問がある場合や自筆遺言の自書性に疑問がある場合等には家庭裁判所において調停を申立てることができます。

また、調停を申し立てても解決の見込みがない場合には、地方裁判所において遺言無効確認訴訟を起こすこともできます。

これにより、適正な相続分の再評価や遺言書の有効性を法的に調査できるため、納得のいかない遺言をそのまま受け入れずに済むかもしれません。

ただし、手続きが長引くこともあるため、時間的な負担を考慮したうえで進める必要があります。

特別受益・寄与分の主張し不公平感を是正する

特定の相続人へ生前贈与があった場合や、被相続人に対する自らの貢献が大きいと感じる場合、「特別受益」または「寄与分」を主張する方法が考えられます(民法903条・904条の2)。


こうした法的手段を通じて、公平性を確保するための主張を行うことが大切です。

遺留分侵害額請求をするという選択肢

遺留分(いりゅうぶん)とは、相続人のうち一定の立場にある人が、被相続人の遺言や生前贈与によっても奪われない最低限の取り分として、民法で保障されている法的権利です。

もし遺言や生前贈与によって、自分の遺留分が侵害された場合には、「遺留分侵害額請求」(旧:遺留分減殺請求)を行うことができます(民法1046条)。

これにより、遺産分割協議の再開に向けた糸口になることも多く、弁護士の助言を受けながら請求を検討する価値があります。

5.弁護士に依頼するメリットと依頼時のポイント

複雑化しやすい相続トラブルを解消するには、弁護士などの専門家に早めに相談することが重要です。

自分の権利をしっかり守りながら、スムーズに話し合いを進めるための選択肢が広がります。

特に相続人同士の感情的対立や複雑な寄与分の主張が絡む場合、法律の専門家の助けがあると多角的な視点で問題を整理できます。

弁護士に依頼する際には、相続問題の実績が豊富な事務所を選び、費用や対応方針などを明確に確認しておくと安心です。

難航してしまった遺産分割協議の調整だけでなく、裁判所での調停や審判の手続きに関しても専門知識は頼りになりますし、相続手続きはそれぞれ期限が決められているため、早めの検討をおすすめします。

弁護士の介入で交渉が円滑に進みやすい

弁護士が間に立つことで、あらかじめ法的な見解を示しながら合意点を探ることができます。

互いに感情的になりやすい家族間の話し合いでも、客観的な第三者がいることによって対立が和らぐ効果も期待できます。

弁護士は代理人として遺産分割協議に参加するだけでなく、遺産分割協議でまとまった内容について、後々トラブルにならないように遺産分割協議書の作成も行うことができます。

状況に応じて必要な書類の作成や正確な計算を行ってくれるのも大きいメリットです。

調停・審判が長引いても法的サポートを受けられる

相続人同士の直接協議では解決できず、調停や審判に進むケースもあります。

こうした場合でもはじめから弁護士に依頼しておけば、ワンストップで対応することができます。

調停委員とのやりとりや必要書類の作成、期限管理などを一括でサポートしてもらえるため負担が軽減されます。

複雑になったときこそ専門的な知識のある味方が不可欠です。

寄与分・特別受益などの専門的主張を立証しやすい

寄与分や特別受益の有無を争う際には、法的に有効な証拠や説明が求められます。

法律の知識がないまま独力で立証するのは難しいため、実績を持つ弁護士のサポートは大きな強みとなるでしょう。

弁護士に事実関係の調査や資料の整理などを任せることで、当事者は本来の協議や意思決定に専念できる環境が整います。

6.その他の相続手続きでの注意点

相続は遺産分割協議だけにとどまらず、相続登記や税金の管理など、多方面にわたる手続きを正しく進めなければなりません。

どれも遅れが生じるとリスクが高くなる点を押さえておきましょう。


相続登記をはじめとした名義変更や、相続税の確定申告まで視野に入れた計画が必要です。

さらに、相続人を間違って把握しているケースも時々見受けられるため、正確な相続人調査をすることも欠かせません。

相続登記の義務化

2024年4月より相続した不動産の名義変更、いわゆる相続登記は義務化され、期限内に手続きを行わない場合は10万円以下の過料が科されるようになりました。

相続税申告の遅延対策

協議がまとまらないからといって、相続税の申告期限を過ぎてしまうと延滞税だけでなくさまざまなペナルティが重なります。

差し当たり分割協議が完了していない場合は、申告期限内に申告し、未分割である旨の書類(申告期限後3年以内の分割見込書等)を添付することで、配偶者控除等の適用を確保できます。

早めの相続人調査・相続財産調査が解決のカギ

相続人の人数や構成を間違って把握していると、協議のやり直しが必要になる場合があります。

また、預貯金や不動産以外にも、株式や保険などさまざまな形態の資産が隠れていることもあり、トラブルの芽になりがちです。

早い段階で相続人や相続財産を正確に調べ、相続人全員が同じ情報を共有しておくと、後の手続きがスムーズに進みやすくなります。

7.まとめ

相続人の1人が協議を拒否するケースは、感情的な対立から法的な認識のズレまで幅広い要因が潜んでいます。

こうした問題を長引かせるほど、相続手続きの期限や相続財産管理に伴うリスクが高まり、問題解決がさらに難しくなる傾向があります。


協議が進まない場合に備えて、まずは話し合いの呼びかけや専門家の活用、家庭裁判所の調停・審判といった手段を順番に検討していくことが重要です。

また、自分が遺産分割協議への参加をためらう場合でも、相続放棄や遺言無効確認訴訟など、正しい対応を取るようにしましょう。

遺産分割協議が進まないことでお悩みの場合、弁護士に依頼するメリットは大きく、相続争いを避け、正確かつスムーズな遺産相続を目指すことができます。


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この記事の監修者

弁護士 後藤 晋太郎

後藤 晋太郎
(ごとう しんたろう)

一新総合法律事務所 弁護士

出身地:新潟県新発田市 
出身大学:明治大学法科大学院修了
取扱分野は、企業法務をはじめ、相続などの家事事件、交通事故等、幅広い分野に対応しています。地方公務員勤務を経て、弁護士資格を取得。前職でも行政書士を対象としたセミナー講師を務めた実績があります。

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