はじめに
相続財産の中に預貯金がある場合、その預貯金を相続人が入手できるのは、通常は遺産分割協議が整った後です。
しかし、この例外として、遺産分割の前に相続人が預貯金の仮払いを受けられる制度があります。
今回は、この預貯金の仮払い制度について解説いたします。
被相続人が亡くなった場合の、預貯金口座の凍結
一般的に、金融機関は、その金融機関に預貯金口座を有している人の死亡の事実を知った場合、直ちにその口座を凍結して出金ができないようにします。
口座を凍結した後、金融機関は、相続人の間で遺産分割協議が整った場合や、相続人全員が出金または口座解約に同意する場合に、出金・解約に応じるのが一般的です。
そのため、複数の相続人の間で意見の相違があったり、居場所の分からない相続人がいたり、または相続人の一人が判断能力を失って協議や同意をすることができなかったりする場合には、預貯金を現金化して相続人が取得するまでに、相当程度の期間がかかってしまいます。
払戻しの必要性
しかし、例えば、相続人の一人が当面の生活費や葬儀費用に困窮する状況にある場合など、ある程度の額の預貯金を速やかに払い戻すことが必要となる場合があります。
預貯金の仮払い制度は、このような場合に対応するための制度です。
仮払いの手続き
仮払いの手続きとしては、相続人が金融機関に対して申請を行うことで、一定の限度額まで仮払いを受けることができます。
仮払いがなされた分は、その後、残りの預貯金やその他の財産を相続人でどのように分割するかという遺産分割協議が行われる際に、考慮されることになります。
仮払いの限度額
仮払いを受けられる限度額は、次の①及び②によって計算した金額です。
①相続開始時の預貯金の額(口座ごと) ×1/3×払戻しを受ける人の法定相続分 ②ただし、金融機関ごとに上限150万円 |
例えば、相続人の一人であるXさんが2分の1の法定相続分を有していて、相続財産としてA金融機関のa口座に600万円の預金、B金融機関のb口座に1200万円の預金がそれぞれ存在するとします。
この場合、Xさんは、仮払いの手続きをすることによって、次のとおりa口座から100万円、b口座から150万円をそれぞれ上限として、仮払いを受けることができます。
⑴a口座について 600万円×1/3×1/2=100万円 ⑵b口座について 1200万円×1/3×1/2=200万円 ただし、金融機関ごとに150万円が上限のため、上限額である150万円。 |
その他の仮払い制度について
なお、例えば被相続人の債務をどうしても早期に支払わなければならないなど、上記の仮払いの上限額では金額的に不足するという場合は、裁判所に保全処分を申し立てることによって仮払いを受けるという手続きもあります。
何かご不明な点などございましたら、ご遠慮なく当事務所の弁護士にご相談ください。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年4月5日号(vol.279)>
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