コラム

2023.04.10

コラム

遺産整理手続

相続あれこれ~手続きのながれと依頼~

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 誠

今井 誠
(いまい まこと)

一新総合法律事務所 
非常勤顧問/弁護士

出身地:新潟県三条市(旧南蒲原郡下田村)
出身大学:中央大学法学部(労働法専攻)

新潟県弁護士会会長、新潟市包括外部監査人、新潟市法令遵守審査会委員長、新潟商工会議会議所常議員、NPOお笑い事業団ニイガタ理事長などを歴任し、現在も北方文化博物館理事、外部監査役、新潟経済同友会幹事などの役職を務めています。

顧問先の各種相談をはじめ、高齢者の後見・遺言・相続などの相談や案件処理に関与しています。
最近は「お笑い法律相談」「オモシロ事件百科」「お笑い人生相談」など肩の凝らない講話を中心に各種企業や団体からの依頼に応じています。

1 弁護士が依頼される相続案件とは

1975年に弁護士登録をしてから48年になる。

この間、数えきれないほどの相続案件に関与してきた。
弁護士が関与する相続案件の多くは、相続人間に争いのある案件であるが、中には争いがない案件もある。

案件の依頼人の多くは、法定相続人である。

法定相続人の一部の場合もあり、全部の場合もある。
中には法定相続人が誰もいないという案件もある。

相続人が誰もいないというケースには、「一人っ子」「独身」「両親が先に死亡」しているケース(いわゆる「孤独死」のケース)のほか、法定相続人(第1順位、第2順位、第3順位)の全員が相続放棄した結果、相続人がゼロとなるケースがある。

また弁護士が相続案件に関与するケースの中には、相続人の代理人として関与する場合のほか、遺言執行者や成年後見人として関与する場合もある。

更に、事務所の顧問先の企業や団体から「被相続人の債権者・債務者・利害関係人」として相続人調査を依頼され、相続人との交渉や訴訟を依頼されることもある。

また相続放棄などによって相続人がいなくなった際に、「相続財産管理人」の選任申立て手続きを依頼され、相続財産管理人への就任を依頼されることもある。

私自身について言えば、数年前までは、税理士業務を兼務していたこともあり、相続手続きの一環として、相続税の申告手続きなども同時に引き受けてきたが、最近は事務所の顧問税理士に引き受けてもらっている。

2 相続手続きの流れ

(1)相続人はだれ?「相続人調査」

相続案件を受任するに際して確認すべき事項の第1は、「相続人はだれか?」という点である。

この点は、民法第886条以下に規定されており、第1順位の法定相続人として子と配偶者が、第2順位の法定相続人として直系尊属(父母・祖父母)、第3順位の法定相続人として兄弟姉妹が定められている。

子の中には、養子や父または母の異なる実子も含まれるので注意が必要である。

被相続人が一人の場合(父または母)には、相続人を確定することはさほど困難ではないが、被相続人が二人以上の場合(父と母、父と祖父、父と祖父曾祖・曾祖父など)には、相続人を確定することが極めて困難な場合がある。

 私が担当した案件の中には、被相続人が3名で、法定相続人の総数が100名を超えた案件もあった。

この案件では、相続人の中にたまたま法学部の教授がいたので、数名の学生に調査を補助してもらって、1年がかりでやっと調査を完了し、その後、約3年をかけて遺産の一部である専門学校用地を売却処分し、代金を約100名に分配して終了した。

また、子供のいない配偶者(妻)から依頼された相続案件で、被相続人は一人であったが、共同相続人28名のうち、生存している兄弟が1名、死亡している兄弟の子供(甥と姪)27名(代襲相続人)を相手に遺産分割協議をした案件では、相続人確定までに相当の時間と労力を要した半面、遺産の大半が処分困難な株(新聞社、放送局など)と不動産(自宅、事務所ビル、別荘など)であったため、相続手続きが難航し、登記手続きなどの完了まで多くに時間(約5年)と多額の費用(登記費用だけで約100万円)要した。

(2)相続する財産は何がある?「遺産の調査・確定」

相続人が確定したら、次に、遺産の内容を調査し確定する必要がある。

遺産にはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含まれる。

プラスの財産には、土地建物、預貯金、保険金、株式、投資信託、出資金、貸付金、賃料、ゴルフ会員権、自動車、貴金属、書画骨董などが含まれる。

マイナス財産には、住宅ローン債務などの金融債務、各種借入金、保証債務、損害賠償債務などがある。

被相続人が会社を経営していたような場合、その持ち株や経営権をどう扱うか難しい問題がある。
家業として事業を営んでいた場合にも、事業全体をどう区分し、評価するべきか容易ではない。

家業を承継した被相続人以外にも、家族や親族が経営に関与している場合が多いから、被相続人の財産や債権・債務とどこで線引きするか?が問題となるが、そのような場合、被相続人が代表的立場にあったか否かを基準に判断することになる。

家業に従事していた親族が相続人の場合には、遺産分割の際、寄与分として相当額を加算することになるかもしれない。

(3)「遺産分割手続き」依頼ができる専門家は?

遺産の内容が確定したら、次に、遺産分割の手続きに進むことになる。
相続人の数が多く、遺産の内容も多種多様・多額といった場合には、専門家(弁護士・税理士・司法書士・行政書士など)に遺産分割手続きを依頼することになる。

その場合、どの専門家に手続きを依頼するのが良いか?

専門家と呼ばれる「各士業」には、法律上「できること」「できないこと」が定められている。
同じような相続案件・遺産分割案件でも、「争いのある高額案件」は、弁護士以外のものは原則として関与(受任)できない。

しかし、そのような案件でも、相続税の申告は税理士が、相続登記は司法書士が、行政庁への諸手続きは行政書士が、年金等の手続きは社会保険労務士が、受任できる。

3 全員が相続放棄をしたら

遺産分割手続きには、相続人全員による「遺産分割協議」「遺産分割協議に代わる相続分の譲渡」「遺産分割調停」「遺産分割審判」がある。

遺産分割とは別に、相続手続きから離脱する手続きとして、家庭裁判所への「相続放棄の申述」手続きがある。

「相続放棄の申述」が受理されると、申請により「相続放棄・受理証明書」が交付され、初めから相続人でなかった扱いになり、遺産分割の結果いかんにかかわらず、被相続人の借金などから解放されることになる。

第1順位の法定相続人(配偶者・子)全員が相続放棄すると、第2順位の法定相続人(親)が、さらに第2順位の法定相続人全員が相続放棄すると第3順位の法定相続人(兄弟姉妹)が相続人として登場することになる。

そして、第3順位の相続人全員が相続放棄をすると、相続人不在となり、必要に応じて「相続財産管理人」が選任されることになる。

4 遺産を一括して一人に相続させる場合

以前は、農家などの相続に際し、長男以外の共同相続人から「相続分譲渡証明書」に署名、捺印してもらい、後継者となる長男に、被相続人の遺産を一括して相続させる方式が見られたが、近年では、このような前近代的な方式による相続は、ほとんど見られなくなっている。

しかし、貸しビルなど高額の遺産のある案件でも、共同相続人による実質的協議がなされないで、形式的に「遺産分割協議による遺産分割」として処理されているケースが見られる。

そうしたケース中には、共同相続人の一部を除外(調査不足による法定相続人の見落とし)してなされた遺産分割が、相続登記手続き終了後に、協議から除外された共同相続人の一部から異議が出され、遺産分割協議をやり直したケースもある。

5 おわりに

相続手続きは、弁護士が関与する法的手続きの中でも特別な分野といってよいと思う。

争いのない相続案件であれば、だれが関与しても時間や費用や結果に大きな相違はないと思われるが、争いのある案件では、誰がさばくかによって、時間も、費用も、最終的な結果(解決内容)も相当異なると思われる。

残念ながら、同じ案件を、異なる専門家が、同時に処理するということがないので正確には比較のしようがないが、弁護士、税理士、社会保険労務士(※現在は弁護士資格のみ保有)として多くの相続案件を担当してきた私自身の体験からは、どの専門家が担当するかによって処理時間、処理費用、処理結果などに相当の違いがあるように思われる。

◆相続でお悩みの方へメッセージ◆
相続案件は、デリケートな内容を含むものが多いので、税理士や行政書士よりも、弁護士に依頼することが賢明かと思います。
特に、相続人の多い案件、遺産内容が多種で高額な案件、争族になりそうな案件は、相続案件を多く処理した経験がある、専門の弁護士をお勧めします。


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