【事案の概要】
Aさんは、夫とともに、自宅と店舗を兼ねている夫名義の建物で喫茶店を営んでいましたが、このたび夫が亡くなりました。
Aさんと夫は再婚同士であり、再婚後はAさんと前の夫との間の2人の娘とこの建物で同居していました。
夫にも前の妻との間に2人の息子がいましたが、その息子たちは前の妻とともに暮らしており、長い間連絡もとっていませんでした。
Aさんは、夫が亡くなった後も、娘たちとともに夫名義の建物に住み、喫茶店の営業を続けていました。
そんなある日、突然、夫と前妻との間の息子であるBさんから、Aさんに対する調停が申し立てられました。
Aさんは、突然のことで驚きましたが、恐る恐る家庭裁判所へ出向き、第1回目の調停に出席しました。
調停の場で、Aさんは調停委員から、「Bさんは、あなたが今住んでいる建物を売却し、その代金を法定相続分で分けることを提案しています。1000万円で買いたいという人も見つけたそうです。Bさんの弟のCさんもそれに同意しているとのことです。」と告げられました。
Aさんは驚いて「建物を売ってしまったら、住むところがなくなって喫茶店も続けられなくなります。あの建物には夫の思い出がたくさん残っているので手放したくありません。なぜ、今まで連絡も取っていなかったBさんやCさんに建物を取られなければならないのですか!」と反論しましたが、調停委員は「BさんとCさんはご主人の法定相続人であり、遺産をもらう権利があります。ご主人の遺産はその建物だけですから、売却して代金を分けるのもやむを得ないのではないでしょうか。次回までに考えてきてください」などと、けんもほろろな態度でした。
Aさんは困り果てて、弁護士に依頼しました。
Aさんは弁護士に、とにかく建物を手放したくないことを訴えました。
弁護士はAさんに、BさんとCさんにも亡夫の遺産をもらう権利があることを説明した上で、Aさんに、現金・預貯金をどれくらい持っているか尋ねました。
Aさんは、亡夫の生命保険金として、500万円を受け取り、これには手を付けていないことを打ち明けました。
弁護士はAさんに、「BさんとCさんに現金を250万円ずつ支払って、建物はAさんが取得する」という解決策を提案しました。
Aさんは、500万円を支払うことには躊躇しましたが、建物を手放さなくても済むのであれば、仕方がないと思って納得しました。
次の調停期日で、弁護士は、上記のとおりの解決策を提案し、BさんとCさんもこれに合意して、調停が成立しました。
Aさんは、これまでどおり建物に住み、喫茶店を続けることもできました。
【弁護士の解説】
被相続人の妻と子は、法定相続人となり、2分の1ずつの相続分を有します(子が複数いる場合は子の分を頭数で割ります。)。
この事案では、Aさんの夫にはBさんとCさんという2人の子がいるため、Aさんの夫が亡くなったことの相続について、Aさんが2分の1、BさんとCさんがそれぞれ4分の1ずつの相続分を有しています。
この事案のように、遺産が不動産のみの場合、遺産分割の方法としては、①各相続人の相続分に応じて共有とする、②特定の相続人が、不動産を取得するとともに、他の相続人に対して不動産の価値に応じた代償金を支払う、③売却して代金を相続分に応じて分ける、といった方法が考えられます。
この事案で、Aさんは相手方であるBさんから③の方法を主張されていましたが、弁護士のアドバイスにより、②の方法を提案して、その内容で調停が成立しました。
これによって、Aさんは建物を取得することができ、BさんとCさんにおいても、売却した場合と同等の現金を受け取ることができるということで、無事合意することができました。