【事案の概要】
Aさんの家は代々続く農家ですが、このたび、父であるWさんが亡くなりました。
Aさんの母は数年前に亡くなっており、Wさんの相続人は、Aさんと2人の妹であるBさん、Cさんです。
BさんとCさんは、いずれも結婚して他県で暮らしています。
Aさんは、喪主として盛大な葬儀でWさんを弔いたいと考え、豪華な祭壇や仏花を注文して、お斎の料理や飲み物も多くの品数を揃えました。
葬儀とお斎にかかった費用は、葬儀が約400万円、お斎が約100万円の合計約500万円でした。 (以下、葬儀代とお斎代を合わせて「葬儀費用等」と言います。)。
また、Aさんの住む地域では、長男がお墓を守っていくのが慣習となっていたため、Aさんは、Wさんが亡くなったのを機に先祖代々のお墓を建て替えて、約300万円を支出しました。
なお、BさんとCさんは、葬儀費用等、お墓代のいずれについても一切費用負担をしていません。
Wさんが亡くなってから一段落したところで、Aさんは、妹であるBさんとCさんを自宅へ呼び、Wさんの遺産分割について話し合いを行いました。
Wさんの遺産は、自宅の土地建物、田んぼや畑などの農地、預金がありました。
Aさんは、Wさんの葬儀費用等とお墓代の合計約800万円について、Aさんが立て替えているから、Wさんの遺産からこれを差し引いた上で、残りの遺産を法定相続分で分割することを提案しました。
すると、Bさんが、「Aの判断で豪華な葬儀を行ったり高いお墓を建てたのだから、その費用を遺産から差し引くのはおかしい。そもそも、葬儀やお墓にこんなにお金をかけるのはおかしいと思っていた。」と主張し、Cさんも、「Aは香典も独り占めしている。香典も相続人で平等に分けるべきだ。」と主張して、Aさんの提案を拒否しました。
Aさんは、葬儀やお墓にお金をかけたのはWさんのためであること、香典も全て葬儀費用等やお墓代として使ったと説明しましたが、BさんとCさんは納得せず、遺産分割協議はまとまりませんでした。
Aさんは、妹2人に責められて困り果ててしまい、弁護士に相談しました。
弁護士はAさんに対し、葬儀費用等を遺産から差し引くことは、相続人全員が同意すれば可能だが、反対している相続人がいる場合には難しいということを説明しました。
また、お墓代については、Aさんが先祖代々のお墓や仏壇を守っていくのであれば、Aさんが負担すべきであることを説明しました。
他方で、香典については、葬儀を主宰した人への贈与と考えられることから、Aさんが取得して葬儀費用等に使ったのであれば返還の必要はないことを説明しました。
Aさんは、弁護士の見解を踏まえて、再度Bさん、Cさんと遺産分割協議を行いました。
その結果、葬儀費用等は遺産から差し引かないものの、香典の返還をしないことを前提として、Wさん名義の不動産と預貯金を法定相続分で分割する内容の遺産分割協議をまとめることができました。
【弁護士の解説】
葬儀費用等を誰が負担するかについては、民法その他の法律には明確な規定がありません。
この点については、喪主(葬儀主宰者)が負担すべきという見解と、相続財産が負担すべきという見解がありますが、最近の裁判例は、喪主が負担すべきという見解を採用しています。
また、お墓については、祭祀主宰者(お墓や仏壇などを守って祖先の供養を行う人)がお墓を承継しますので、お墓の建替え費用等も祭祀主催者が負担すべきです。
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