【事案の概要】
Aさんは60代の男性です。
このたび、自宅で同居していた父が亡くなりました。
Aさんには同じ60代の兄(Bさん)と妹(Cさん)がおり、母はすでに亡くなっていました。
Aさんと父は新潟県の自宅に住んでおり、兄は東京都に、妹は京都府に住んでいました。
父の遺産としては、自宅の土地建物、預金、株式などがありました。
父は、生前、Aさんの結婚の際に結納金や挙式費用を援助したことがありました。
Aさんは、Bさん、Cさんとはこれまであまり連絡をとっていませんでしたが、父が亡くなったことで遺産分割の話をしなければならないと思い、電話で連絡をとってみました。
しかし、分割の内容について折り合いがつかず、BさんとCさんは、結納金などの援助を受けたのだからAさんの取り分が少なくなるべきだと主張してきました。
そこでAさんは、当事務所の弁護士に相談し、相続について弁護士に委任することにしました。
弁護士は、Aさんの代理人としてBさん、Cさんと交渉を行い、結納金や挙式費用の生前贈与は特別受益にあたらないと法的に解釈すべきことなどを主張しました。
その結果、Aさんの納得のいく分割割合で遺産分割協議を成立させることができました。
【弁護士の解説】
相続人の一部に、亡くなった方から生前贈与を受けるなど特別の利益を得ていた人がいることがあります。
これを特別受益といいます。
このような場合に、現に存在する遺産のみを法定相続分に従うなどして単純に分けてしまうと、不公平が生じます。
そこで法律は、そのような生前贈与を相続分の前渡しと考えて、計算上相続財産に持ち戻して「みなし相続財産」として扱い、遺産分割の際に考慮することとしています。
つまり、生前に特別の利益を受けた人は、相続手続のなかで遺産取得分が減らされる扱いとなるのです。
しかし、親族からの援助が全て特別受益と認められるわけではなく、生前贈与としての特別受益は「生計の資本としての贈与」に限定されています。
そして、結納金や挙式費用はこれにあたらないとするのが一般的な考え方です。
また、被相続人が「生前贈与を相続分算定にあたって考慮しない」といった内容の遺言を作成し、持ち戻し免除の意思表示をしている場合には、遺留分の規定に反しない限り、生前贈与は特別受益として考慮しないことになります。
このように、実際に特別受益にあたるかどうかは簡単にはいえないところがあり、特別受益額の評価や持戻し計算など、他にも複雑な点があります。このような悩みをお持ちの方は、お早めに当事務所の弁護士までご相談ください。