遺産相続の際に、問題となりやすいのは管理の難しい、不要な「負動産」です。
特に、田んぼや畑などの農地は、農業従事者でないと活用することも難しく、相続税や固定資産税、そして相続後の管理が負担となってしまいます。
また、農地は「農地法」により、宅地とは違い自由に売却することはできませんので、手放したいと思ったタイミングで手放せないといったデメリットもあります。
一方で、相続した農地を有効に活用する方法もありますので、すぐに相続放棄をするのではなく、様々な条件を確認し、慎重に検討する必要があります。
今回のコラムでは、
・農地は相続放棄できるのか
・相続放棄した場合・相続した場合、それぞれの手続きと注意点
・農地を相続した場合のメリットと土地活用方法
について詳しく解説していきます。
1.相続財産に農地(田んぼ・畑)があった場合には注意が必要
農地だけを相続放棄することはできる?
相続放棄とは、プラスの財産(自宅や預貯金など)・マイナスの財産(借金など)の全てを相続する権利を放棄することです。
つまり農地だけを相続放棄したいといった、部分的な相続放棄をすることはできません。
相続財産全体で考えたときに、マイナスとなる(借金の方が多くなる)ような場合には相続放棄を検討することになるケースが多いでしょう。
2.農地を相続放棄する場合の手続きと注意点
相続放棄する場合の手続き
相続放棄には期限があり、自己のために相続開始があったことを知った日から3カ月以内に家庭裁判所へ申し立てなければなりません。
手続きの流れは以下のようになります。
①相続放棄申述書の作成
申述書は各地の家庭裁判所で入手するか、裁判所のHPよりダウンロードすることができます。
申述人が成人している場合と、未成年者の場合で書式が異なりますのでご注意ください。
申立には、申述書のほかに、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、申述人(放棄する方)の戸籍謄本などが必要となります。
__________
裁判所HP:相続放棄申述書▼
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/index.html
②家庭裁判所に相続放棄の申立てを行う
相続放棄の期限内に、必要書類を家庭裁判所に提出して申立てを行います。
③家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届く
家庭裁判所への申立て後、相続放棄の申述に問題がないか等の照会書が送られてきます。
相続放棄の内容に問題ないこと、意思に変更がないことについて照会書に回答し、署名・捺印して家庭裁判所へ返送します。
照会書が受理されると、家庭裁判所より相続放棄申述受理通知書が届きます。
これで相続放棄の手続きが完了となります。
相続放棄した場合の注意点
①自分の相続放棄後に次の相続人がいる場合
相続放棄をすると、次の相続順位の相続人へと相続権が移ります。
②相続人がいなくなってしまった場合
相続人が自分一人しかいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合には、最後に相続放棄した人かつ現に占有している人に管理義務が発生します。
管理が難しい場合には、相続放棄をするとともに家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てする方法があります。
ただし、相続財産清算人の選任には、申立手続に必要な費用や、相続財産清算人が管理業務を行うためにかかる経費・報酬等にあたる予納金を納める必要があります。
特に予納金は、相続財産の金額によっても異なりますが、20 万円から 100 万円を超える金額が必要となる場合もある点に留意が必要です。
③相続放棄せずに相続した土地を国に引き渡すことができる
相続した土地(宅地・山林・農地など)の所有権を国に帰属させることができる「相続土地国庫帰属制度」が令和5年4月から開始されました。
この制度を利用することで、相続放棄をせずとも不要な土地だけを手放すことができるようになりました。
ただし、すべての土地が国に引き取ってもらえるわけではありません。
国庫に帰属できるのは一定の要件を満たしている土地が対象となり、また、負担金も納付する必要があります。
\もっと詳しく/
相続土地国庫帰属制度について▶コラム「相続土地国庫帰属法とは? 土地の要件と手続きについて解説」
3.農地を相続する場合の手続き
次に、農地を相続した場合の手続きや活用方法について解説します。
農地を相続した場合に必要な手続き
不動産を相続した場合には相続登記が必要となりますが、農地を相続した場合には、それとは別に農地法に基づき農業委員会への届出書の提出が必要となります。
届け出は、相続を知った日から10か月以内に行う必要があり、期限を超過すると10万円以下の過料が発生することもあります。
\もっと詳しく/
相続登記の義務化について▶相続登記の義務化|対象となるのはいつから?手続きの方法や、手続きをしなかった場合のリスクについて
農業を継承する場合
農地には「相続税納税猶予制度」があり、相続した農地を引き継いで農業を続けると、相続税などの税金について納税猶予などの特例を受けることができます。
納税猶予を受けるには、相続税の申告期限前に営農を開始することなど、一定の要件を満たす必要があります。
ただし、後になって農業をやめたり、農地を売却したりすると、それまで猶予されていた相続税に加えて利子税も支払わなければならなくなるため注意が必要です。
相続税納税猶予制度については国税庁HPで確認できます。
__________
国税庁HP:相続納税猶予制度▼
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4147.htm
4.農地を相続した場合の活用方法と注意点
相続した農地の活用方法
①農地転用(地目の変更)
農地は食料自給率維持の観点から、農地以外への転用が制限されており、農地を農地以外のものとする場合(農地法第4条)、農地等を農地等以外のものにするため権利の設定又は移転を行う場合(農地法第5条)には、原則として農地転用許可が必要となります。
農地転用の許可がおりれば、地目変更後に、宅地として売却したり、アパート経営したりなど土地活用することができます。
②農地のまま農家へ売却する
地目変更をせずに、相続した農地をほかの農業従事者へ売却する方法があります。
ただし、農地を購入できるのは、農業委員会の許可を受けた農家や農業従事者に制限されるなど、農地法第3条による農業委員会の許可が必要となります。
また、多くの場合は近隣の農家が売却先候補となるため、なかなか買い手が見つからない可能性もある点に留意が必要です。
③農地として貸し出す(委託する)
農地法第3条により、農地の所在地を管轄する市町村の農業委員会に申請書を提出し許可を得られれば、農地をして貸し出すことも可能です。
許可を受けるための主な要件は以下のとおりです。
・農地のすべてを効率的に利用すること(機械、労働力、技術等を適切に利用するための営農計画を持っていること)
・必要な農作業に常時従事すること(農地の取得者が必要な農作業に常時(原則年間150日以上)従事すること)
・周辺の農地利用に支障を与えない利用方法であること
その他、転貸目的や、一定面積以上(北海道を除く都府県の場合は50アール以上※地域によって別段定めがある場合はその面積とする)に達しないなど、許可がおりない場合の基準があります。
農地を貸し出すことができれば、一定の賃料収入を得られ、農地の管理も任せられます。
貸し出し先は、管轄する市町村役場が運営する農地中間管理事業(農地バンク)に登録して探すことができます。
【農地活用の事例紹介】
▶相続した遺産に田畑があるが、自分で耕作はできないので、誰かに耕作を委託したい
Aさん(40代・男性)からのご相談。
Aさんと同居していた、父であるWさんが亡くなりました。
相続人は母がすでに他界していたため、息子のAさん、その妹であるBさんの2人です。
【Wさんの遺産:自宅土地建物、預貯金、株式、田んぼと畑】
遺産分割協議において以下のように遺産相続することにまとまりました。
Aさん:自宅土地建物、田んぼ・畑
Bさん:預貯金、株式
居住していた自宅を相続できたAさんですが、会社員をしていたため、田畑についてだれかに耕作を委託したいとの要望でした。
農業委託の方法について、弁護士から3通りの方法を提示しました。
※詳細は【解決事例】で解説しています※
農地を相続した場合の注意点
①農地は宅地のように簡単に売却できない
農地法では、優良農地を確保するために、農地から宅地への転用(地目変更)を勝手にすることを認めていません。
地目変更するためには、農地法第4条又は第5条による農業委員会の許可が必要となります。
農地は優良性や土地の利用状況により区分されており、農業上の利用に支障が生じる恐れの高い農地は原則転用不許可、そうでない場合は原則転用許可とされています。
生産緑地に指定されている農地の場合には、原則としてその使用用途が農地または農業関連施設に限定されており、宅地に転用することはできません。
②有効活用できなかった場合の負担
相続した農地を有効活用できなかった場合には、固定資産税等の支払い、所有農地周辺の草刈りや用水路の整備等の管理責任を果たさなければなりません。
もし管理をせずに放置してしまい、「耕作放棄地」となってしまうと、買い手が付きづらくなるばかりか、国庫帰属できないなどの状態となり処分が難しくなります。
5.相続財産に農地があった場合には慎重に検討しましょう
相続財産に農地が含まれていた場合には、相続するのか、相続放棄するのかの判断が難しくなります。
対象となる農地の立地条件等や、農地以外の相続財産の内容によっても判断が異なってきますので、慎重に検討するほうがよいでしょう。
農地を使用する予定がない場合でも、すぐに相続手続きを始めるのではなく、まずは一度、弁護士にご相談ください。
相続・遺言・生前対策などのご相談は0120-15-4640までどうぞお気軽にお問い合わせください。